はじめに
怒・喜・思・悲・恐――
五臓に対応する情志は、それぞれ独立した感情のように見えます。
しかし東洋医学では、これらはバラバラに存在しているのではなく、
一つの循環の中で連続的に変化する現象
と考えられています。
本記事では、五臓の情志がどのように循環し、どのようにバランスを保っているのかを、全体構造として整理します。
情志は「五行の気の運動」の表現
五臓の情志は、五行の気の運動方向に対応しています。
| 五行 | 臓 | 気の動き | 情志 |
|---|---|---|---|
| 木 | 肝 | 上昇・発散 | 怒 |
| 火 | 心 | 拡散・外向 | 喜 |
| 土 | 脾 | 集中・保持 | 思 |
| 金 | 肺 | 収斂・下降 | 悲 |
| 水 | 腎 | 深沈・保持 | 恐 |
つまり情志とは、気の運動が精神として現れたものです。
情志は一方向ではなく「循環」する
五行の関係と同様に、情志も次の順序で循環します。
怒 → 喜 → 思 → 悲 → 恐 → 怒
これは単なる並びではなく、
気の運動が変化していく自然な流れ
を示しています。
① 怒が喜を生む(木生火)
怒りは、気が強く上昇し発散している状態です。
この発散が十分に行われると、気は開放され、
- すっきりする
- 活力が生まれる
という喜の状態へ移行します。
⇒ 適度な怒りは、実は心の活性化を生むのです。
② 喜が思を生む(火生土)
喜びによって気が外へ開くと、やがてその気は内へ戻り、安定しようとします。
すると、
- 集中
- 熟考
- 内省
という「思」の状態になります。
⇒ 喜は、内面の充実へとつながります。
③ 思が悲を生む(土生金)
思いが深まると、気は次第に収束し、内側へまとまります。
この収縮が進むと、
- 感傷
- 憂い
- 静かな悲しみ
が生まれます。
⇒ 思は、気を収斂させる段階です。
④ 悲が恐を生む(金生水)
悲しみにより気が下へ落ちると、その流れはさらに深部へ沈みます。
すると、
- 不安
- 恐れ
- 根源的な危機感
という「恐」の情志が現れます。
⇒ 悲は、気を深く沈める作用を持ちます。
⑤ 恐が怒を生む(水生木)
恐れによって気が深く沈むと、そこから再び上昇の力が生まれます。
これは生命が自己を守るための反応です。
その結果、
- 防御的な怒り
- 反発力
- 行動エネルギー
が生まれ、再び怒へと循環します。
⇒ 恐は、新たな発動の起点となります。
情志の循環が意味するもの
この循環は、感情が本来、
一つの流れの中で役割を分担している
ことを示しています。
- 怒は発動
- 喜は拡散
- 思は安定
- 悲は収束
- 恐は保持
すべてが揃うことで、心はバランスを保ちます。
偏りが起こると循環は止まる
問題になるのは、どこかで流れが滞ることです。
例:
- 怒りが続く → 気が上昇し続ける
- 思い悩みが続く → 気が停滞する
- 恐れが続く → 気が沈みすぎる
⇒ 情志の病理とは、循環の停止なのです。
情志を整えるとは循環を回復すること
東洋医学では、特定の感情を消そうとはしません。
目指すのは、
- 偏りを整え
- 流れを回復し
- 循環を取り戻す
ことです。
感情が自然に移り変わるとき、五臓の気もまた調和しています。
まとめ
五臓の情志は、独立した感情ではなく、五行の気の運動として循環しています。
怒 → 喜 → 思 → 悲 → 恐 → 怒
という流れは、気が
- 発動し
- 拡散し
- 安定し
- 収束し
- 深く蓄えられ
再び動き出すという、生命の基本的なリズムそのものです。
情志を理解するとは、感情を分類することではなく、気の循環を読み取ることなのです。
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