肺(はい)とは何か
肺は、蔵象学説において気の出入りと水分代謝を統括し、身体を外界から守る臓と位置づけられます。解剖学的な肺そのものではなく、呼吸・気機調節・体表防御を束ねた、内外をつなぐ機能ユニットとして理解されます。
一言でいうと
「気と水を巡らせ、境界を守る臓」
肺の中核となる生理機能
肺の生理を理解するうえで、軸となるのは次の二つです。
① 気(き)を主る
肺は、呼吸を通じて清気を取り込み、全身の気を統率する働きを担います。
- 清気を吸入し、濁気を排出する
- 宗気を形成し、心脈や声に影響する
- 全身の気機を調整する
肺気が充実していると、呼吸は深く、声には力があります。
② 宣発・粛降(せんぱつ・しゅくこう)を主る
宣発とは、気と津液を体表へ散布する働き、粛降とは、それらを下方へと収める働きを指します。
- 宣発:皮毛を温め、発汗を調整する
- 粛降:呼吸を安定させ、水分を下へ導く
この二方向の働きが、肺の最重要な生理特性です。
「主る」から広がる肺の生理特性
中核機能である気の統率と宣発・粛降から、肺の生理特性が派生します。
- 水道通調:津液を全身に巡らせ、停滞を防ぐ
- 衛気との関係:外邪から身体を防御する
- 皮毛との関係:発汗・体温調節に関与する
- 鼻・嗅覚:呼吸と感覚の入口を司る
肺の象(あらわれ)— 外に現れるサイン
肺の状態は、次の部位や機能に反映されます。
- 皮毛を主る:肌の潤い、汗の出方
- 鼻に開竅する:鼻づまり、嗅覚、鼻水
- 声に現れる:声量、かすれ、発声の安定
これらは、肺気と津液代謝を観察する重要な手がかりです。
病理に転じたときの肺
肺の働きが失調すると、次のような方向に傾きやすくなります。
いずれも「宣発・粛降の失調」として整理できます。
他臓との関係から見る肺
肺と脾
脾が生み出した気を、肺が全身へと散布します。脾虚は肺気を弱め、痰湿を生じやすくします。
肺と腎
肺は気を下ろし、腎はそれを納めます(肺腎相交)。呼吸の深さは両者の協調によって保たれます。
役職としての肺 〜「相傅の官」〜
肺が「相傅の官」と称されるのは、
- 君主(心)を補佐し
- 全身の秩序を整える
という役割を担うためです。気の統率と宣発・粛降が、その比喩を支えています。
まとめ
肺は、
- 気を主り
- 宣発・粛降を通じて水道を調え
- 内外の境界を守る臓
として、呼吸・免疫・水分代謝の要を担っています。肺の理解は、外感病や慢性呼吸器症状を読み解く鍵となります。