はじめに
怒・喜・思・悲・恐――
五臓に対応する情志は、それぞれ独立した感情のように見えます。
しかし東洋医学では、これらは単に循環しているだけでなく、
互いに制御し合う関係の中でバランスを保っている
と考えます。
本記事では、五臓の相剋関係を軸に、情志がどのように互いを調整しているのかを整理します。
情志は「制御関係」の中で安定する
五行には、生み出す関係(相生)だけでなく、抑制する関係(相剋)があります。
情志も同様に、
- ある感情が強くなりすぎたとき
- 別の感情がそれを抑える
という仕組みで調和が保たれます。
つまり、感情は互いにブレーキの役割を持っているのです。
① 怒は思に制御される(木剋土)
怒りは気を上昇させ、外へ発散させます。
これが強くなりすぎると、衝動的で制御不能な状態になります。
ここで働くのが「思」です。
- 状況を考える
- 理性で整理する
- 内へ気を集める
⇒ 思は、怒りの暴走を止める役割を持ちます。
② 思は恐に制御される(土剋水)
思い悩みが過剰になると、気は停滞し続けます。
そこに働くのが「恐」です。
- 危機感
- 現実認識
- 行動の必要性
👉 恐は、思の停滞を断ち切る力になります。
③ 恐は喜に制御される(水剋火)
恐れが強すぎると、気は深く沈み、行動できなくなります。
ここで働くのが「喜」です。
- 安心感
- 解放感
- 心の温かさ
⇒ 喜は、恐による萎縮を緩めます。
④ 喜は悲に制御される(火剋金)
喜が過剰になると、気は拡散し続け、落ち着きを失います。
そこに働くのが「悲」です。
- 内省
- 静けさ
- 収斂の力
⇒ 悲は、喜の過度な拡散を抑えます。
⑤ 悲は怒に制御される(金剋木)
悲しみが続くと、気は収縮し続け、活力を失います。
ここで働くのが「怒」です。
- 立ち上がる力
- 抵抗する力
- 外へ向かうエネルギー
⇒ 怒は、悲の停滞を破る原動力になります。
制御関係が意味するもの
この関係は、感情に善悪がないことを示しています。
- 怒は暴走を止めることもできる
- 恐は停滞を破ることもできる
- 悲は過剰な興奮を鎮めることもできる
つまり、どの感情も必要な役割を持つ調整装置なのです。
バランスが崩れると制御は効かなくなる
五臓の働きが弱まると、この制御関係は機能しなくなります。
例えば:
- 脾虚 → 思が弱く怒を抑えられない
- 腎虚 → 恐が弱く思の停滞が続く
- 肺虚 → 悲が弱く喜の興奮が収まらない
⇒ 情志の暴走とは、制御系の失調なのです。
情志を整えるとは「抑える力を回復すること」
東洋医学では、特定の感情を消そうとはしません。
目指すのは、
- 五臓の働きを回復させ
- 相剋関係を正常に戻し
- 自然な制御を取り戻すこと
です。
感情が自然に収まり、次の状態へ移るとき、五臓の調和が回復しています。
まとめ
五臓の情志は、循環するだけでなく、互いに制御し合う関係の中で安定しています。
怒は思に抑えられ、
思は恐に抑えられ、
恐は喜に緩められ、
喜は悲に鎮められ、
悲は怒に破られます。
感情の健康とは、どれかを排除することではなく、互いに制御し合う力が保たれていることなのです。
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