陰蹻脈

概要

陰蹻脈は、身体の内側(陰分)を上下に貫く経脈で、「静止」「休息」「睡眠」「内省」といった“陰の動き”を司ります。
「蹻(きょう)」は「動き・跳ねる」を意味しますが、陽蹻脈が「外への動き(覚醒・活動)」を支えるのに対し、陰蹻脈は「内への静まり(休息・睡眠)」を支える経脈です。
身体の内側を流れ、姿勢の安定、感情の鎮静、睡眠の誘導に深く関わります。


別名と象徴

  • 別名: 陰の動脈、静の脈
  • 象徴: 「休息と内面の調和」
  • 主な働き: 睡眠・静止・内面安定・身体の内側のバランス維持


経絡の流れ

  • 起点: 足の少陰腎経「照海(しょうかい)」
  • 流れ
    足の内側 → 膝の内側 → 太もも内側 → 下腹部 → 胸部 →
    → 鎖骨下 → 頸部 → 顔面 → 目の内角(睛明)
身体の内側(陰面)を上行し、最終的に目頭に至ります。
この「睛明」で陽蹻脈と交わり、睡眠と覚醒のリズムを統合します。


主な作用

働き 内容
① 陰気の動きの調整 身体の内側の陰気を動かし、筋肉や関節の内側の緊張を調える。
② 睡眠と覚醒のバランス 陽蹻脈と連携し、眠りに入る・目覚めるの切り替えを調整。
③ 姿勢・歩行の安定 身体の内側の筋肉(特に下肢内側)のバランスを保つ。
④ 精神の鎮静 情緒の興奮・不安・緊張を鎮め、心を落ち着かせる。

 

関連臓腑・性質

  • 所属: 奇経八脈
  • 性質: 陰
  • 主な関連経絡: 足の少陰腎経
  • 関連臓腑: 腎・心・肝
  • 表裏関係: 陽蹻脈(外側の陽の動き・覚醒に関与)


経穴(代表的なもの)

経穴名(読み) 所属経絡 主な効能
照海(しょうかい) 腎経 陰蹻脈の開穴。不眠・喉の渇き・情緒不安・冷え。
睛明(せいめい) 膀胱経・胃経 目の疲れ・睡眠障害。陽蹻脈と交会。
交信(こうしん) 腎経 陰陽の交わりを調え、月経不順や自律神経調整に。
気穴(きけつ) 胃経 下腹部の気滞・婦人科疾患。
大迎(だいげい) 胃経 顔のむくみ・表情筋の緊張緩和。


主な症状・異常

陰蹻脈が乱れると、「陰の静まり」が失われ、体や心の緊張・不眠などが現れます。
  • 寝つきが悪い・途中で目が覚める
  • 目が冴えて眠れない(陽蹻脈との不調和)
  • 足の内側のつっぱり・こむら返り
  • 手足の冷え・冷感
  • 精神的な不安・イライラ・情緒不安定
  • 生理不順・更年期症状
  • 顔のこわばりや引きつり


養生のポイント

  • 夜は光や刺激を避け、静かな時間をつくる
  • 足湯や温湿布で足の内側(陰蹻脈経路)を温める
  • 深呼吸や軽い瞑想で心を鎮める
  • 温かい飲み物やスープで腎を養う
  • 睡眠前に「照海」を軽く押す・温める


象徴的な経穴:照海(しょうかい)

  • 位置: 内くるぶしの下のくぼみ(舟状骨の下)
  • 所属経絡: 足の少陰腎経
  • 効能: 不眠・喉の渇き・月経不順・情緒不安
  • 特徴: 陰蹻脈の「開穴(かいけつ)」であり、心身を落ち着けて眠りへ導くツボ。
「照海」は、“静けさに光をもたらす海”。
内なる波を鎮め、穏やかな眠りを取り戻す経穴です。


一言まとめ

陰蹻脈は「静けさへと誘う脈」。
陽蹻脈が目覚めを司るなら、陰蹻脈は眠りを司る。
体と心を内へと静め、夜の安らぎを保つ働きを担う。

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