概要
化痰排膿(けたんはいのう)とは、 痰湿を化し、膿を排出させて化膿性病変を治す治法である。 痰と膿はいずれも津液が停滞し、熱毒や瘀血と結びついて形成される濁性の産物である。 「痰は膿の母」ともいわれ、痰湿が鬱して熱に変じると膿が生じる。 したがって、化痰排膿法は、痰湿を除いて気血の流通を回復し、膿の排出を促すことを目的とする。 主として肺癰(肺膿瘍)・腸癰(虫垂炎・腸膿瘍)・皮膚化膿などに用いられる。
主な作用
- 痰湿を化する:痰濁の停滞を除き、気血の流通を回復させる。
- 膿を排出する:熱毒・瘀血・壅滞を散らし、膿を外へ導く。
- 熱毒を清する:膿の形成を抑え、炎症を鎮める。
- 腫脹・疼痛を軽減:気滞・血瘀の鬱結を除いて通利を図る。
化痰排膿法は、単なる膿の排出だけでなく、膿の成長(成膿期)・排膿(排膿期)・修復(恢復期)に応じて施す。
主な適応症状
- 咳嗽・喀膿・発熱・胸痛(肺癰)
- 右下腹部痛・発熱・便秘・腹部圧痛(腸癰)
- 化膿性皮膚腫瘍・腫脹疼痛
- 口乾・舌紅・苔黄膩・脈滑数
これらは、熱毒が痰湿・瘀血と結して膿を形成し、気血の運行が阻滞した結果として起こる。
主な病機と対応治法
- 熱毒壅肺:清熱解毒・化痰排膿(例:千金苇茎湯)。
- 湿熱壅滞:清熱除湿・化痰排膿(例:排膿散)。
- 瘀血阻滞:活血化瘀・排膿通腫(例:透膿散、仙方活命飲)。
- 気虚不運:益気托毒・排膿生肌(例:托里消毒飲)。
このように、膿の段階(初期〜成膿〜排膿〜恢復)によって「清熱・化痰・活血・托毒」などを組み合わせる。
代表的な方剤
- 千金苇茎湯(せんきんいけいとう):清熱解毒・化痰排膿。肺癰・喀膿・発熱に用いる。
- 排膿散(はいのうさん):清熱除湿・化痰排膿。腸癰・虫垂炎などに応用。
- 透膿散(とうのうさん):活血化瘀・排膿通腫。瘀血を伴う化膿性腫脹に。
- 仙方活命飲(せんぽうかつめいいん):清熱解毒・消腫排膿。各種化膿性疾患に広く用いる。
- 托里消毒飲(たくりしょうどくいん):益気托毒・排膿生肌。慢性化膿や潰瘍に適す。
臨床応用のポイント
- 膿の形成期には清熱化痰を中心に、排膿期には活血通腫・托毒排膿を併用する。
- 肺癰・腸癰などの内膿では、発熱・喀膿・腹痛などの症状を観察して治法を変える。
- 慢性化した場合は、益気・補血薬を配合して膿の吸収・生肌を促す。
- 膿が排出された後も、気血を補い津液を調えて再発を防ぐことが重要。
- 代表的な配合薬は桔梗・瓜蔞仁・苇茎・桃仁・当帰など。
まとめ
化痰排膿法は、 痰湿や熱毒・瘀血による壅滞を除き、膿の形成を抑え、排出を促す治法である。 主に肺癰・腸癰・皮膚化膿などに応用され、 代表方剤は千金苇茎湯・透膿散・仙方活命飲など。 化痰によって膿の根源を除き、排膿によって滞りを解消することが治療の要点である。
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