腹診 各論④:腹部区分(心下・季肋・臍周・少腹)

腹診における腹部区分は、単なる解剖学的な部位分けではなく、臓腑・気血津液・病機の投影領域として理解することが重要である。

腹力・寒熱・虚実・圧痛といった全体的・質的情報を踏まえた上で、「どこに反応が出ているか」を読むことで、病変の中心と治療方針が明確になる。



① 心下(しんか)

心下は、剣状突起直下から胃部にかけての領域で、主に脾胃・中焦・気機昇降の状態を反映する。

  • 心下痞:気滞・痰湿・食滞による中焦の停滞
  • 心下硬:痰熱・食積・実証傾向
  • 心下軟・無力:脾胃虚弱・中気不足
  • 心下部の冷え:脾陽虚・寒湿中阻

心下は「つかえ・もたれ・不快感」といった自覚症状と一致しやすく、問診との照合が特に有効な部位である。



② 季肋部(きろくぶ)

季肋部は肋骨弓下に位置し、主に肝・胆・少陽・気滞の反応が現れやすい。

  • 季肋部の張り・抵抗:肝気鬱結
  • 左右差のある緊張:肝胆失調
  • 圧痛・拒按:気滞が実化、あるいは瘀血を伴う状態
  • 虚的な張り:肝血虚・肝陰虚による代償性緊張

季肋部は情志との関連が非常に強く、精神的ストレス・抑うつ・怒りなどが腹所見に反映されやすい。



③ 臍周(さいしゅう)

臍周は腹診の中でも情報量が多く、脾腎・気血・津液代謝の状態を総合的に示す。

  • 臍周軟弱:脾気虚・中気下陥
  • 臍周の冷え:腎陽虚・寒湿
  • 臍傍圧痛:瘀血の代表所見
  • 臍周膨満:水湿・痰飲の停滞

特に臍傍の限局性圧痛は、慢性疾患・婦人科系疾患・長期の気血停滞を示唆する重要所見である。



④ 少腹(しょうふく)

少腹は臍下から恥骨上部にかけての領域で、主に腎・膀胱・下焦・血分の状態を反映する。

  • 少腹軟弱:腎虚(特に腎気・腎陽虚)
  • 少腹冷感:寒凝・陽虚
  • 少腹急結・硬結:瘀血・血寒
  • 少腹部圧痛:婦人科疾患・泌尿生殖系の病変

少腹の所見は、慢性化・根本虚を示すことが多く、補法と活血法の鑑別が重要となる。



⑤ 腹部区分を統合して読む視点

腹部区分は単独で判断するものではなく、以下の要素と必ず統合して解釈する。

  • 腹力(全体の虚実)
  • 寒熱の質感
  • 圧痛・結滞・緊張の有無

例えば、「臍傍圧痛+全体虚」は本虚標実、「季肋部強い抵抗+実腹」は肝気鬱結実証と判断できる。

このように腹部区分は、病機を立体的に確定させるための“最後のピース”として活用される。

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