概要
衝脈は「十二経脈の海(じゅうにけいみゃくのうみ)」とも称され、全身の気血を貯え、配分する中心経脈です。「衝」は“つらぬく・みなぎる”という意味を持ち、全身の経絡に血流と生命力を押し出す力を与えます。経絡学的には、任脈と同じく会陰部を起点とし、腹部を上行して胸へ、さらには全身へと分布します。陰陽・上下・内外のすべてを貫く経脈であり、いわば“身体の根本的な循環系”です。
別名と象徴
- 別名: 十二経の海・血海(けっかい)
- 象徴: 「母なる大河」
- 支配: 気血の調整、生殖機能、情緒の安定
経絡の流れ
- 起点: 会陰(えいん)
- 流れ:
→ 臍下 → 腹部の内側(任脈に並行)を上昇
→ 胸部 → 咽喉 → 顔面へ
または、
→ 腹部から下肢内側へ下り、足底・大趾へ分布する支流もある。
このように、衝脈は「上行」と「下行」の両方向に流れ、身体全体を貫く「気血の幹線道路」となっています。
主な作用
働き 内容 ① 気血の総統 全身の経絡に気血を供給し、バランスを取る。 ② 血海の主 月経・妊娠・出産に関わる血の流れを司る。 ③ 陰陽調整 上下・内外・左右のエネルギーを調和する。 ④ 心身安定 精神の動揺を鎮め、情緒のバランスを保つ。
関連臓腑・性質
- 所属: 奇経八脈
- 性質: 陰
- 主に関わる臓腑: 腎・肝・脾・心包
- 支配部位: 胸腹・骨盤内臓器・生殖器・足内側
関連経穴(代表的なもの)
衝脈には「単独の経穴」はなく、主に足の太陰脾経の支線として扱われます。
そのため、関連の深い経穴は以下のようになります。
主な経穴 |
所属経絡 |
主な効能 |
---|---|---|
公孫(こうそん) |
脾経 |
衝脈を開く代表穴。胃腸虚弱・月経異常・情緒安定。 |
気海(きかい) |
任脈 |
エネルギー補充・元気回復。 |
関元(かんげん) |
任脈 |
生殖機能の調整・腎精補強。 |
中極(ちゅうきょく) |
任脈 |
膀胱・子宮の調整。 |
大赫(だいかく) |
腎経 |
生殖器の冷え・精力減退。 |
主な症状・異常
衝脈の失調は、血と情緒の乱れに現れます。
- 月経不順・不妊・更年期障害
- 子宮出血・生理痛・PMS
- 動悸・息切れ・胸の圧迫感
- 下腹部の張り・冷え・むくみ
- 不安感・イライラ・情緒不安定
- のぼせ・めまい・自律神経失調
養生のポイント
- 下腹(丹田)を意識し、腹式呼吸で気血を巡らせる
- 適度な運動で血行促進(ウォーキング・太極拳など)
- 冷えを防ぎ、腹・腰を温める
- 無理なダイエット・過労・夜更かしを避ける
- イライラや緊張を溜めず、感情の流れを整える
象徴的な経穴:公孫(こうそん)
- 位置: 足の内側、第一中足骨底の前下方(親指の付け根あたり)
- 所属経絡: 足の太陰脾経
- 効能: 衝脈を開く「八脈交会穴」
- 適応: 月経不順・消化不良・胸腹部の張り・心の不安
一言まとめ
衝脈は「生命の大河」。
気血の流れを全身に押し出し、命をめぐらせる根幹。
陰陽の統合と情緒の調和をもたらす、深き“血の海”の流れ。
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