任脈

概要

任脈は、身体の前面の正中線上を走る陰気の中心経脈です。「任ずる」の意は、“すべての陰経を統べ、生命を育む責任を担う”という意味。
陰脈(肺・心・脾・腎・肝・心包など)を総括し、生殖・月経・胎児の成長・気血の滋養を司ります。
女性では特に重要とされ、月経・妊娠・出産などの生理機能に深く関係します。


経絡の流れ

  • 起点: 会陰(えいん/肛門と性器の間)
  • 流れ
    → 陰部 → 下腹部 → 胸の中央 → のど → あご →
    → 下唇内側へ上行し、承漿(しょうしょう)に至る。
  • 分枝
    腎に入り、膀胱経と連絡し、胸部から顔面に分布する。


経穴一覧(代表的なもの)

番号 経穴名 読み 主な位置 主な効能
CV1   会陰 えいん 肛門と性器の間 生殖器疾患・泌尿器障害
CV3 中極 ちゅうきょく 恥骨上縁上1寸 膀胱炎・月経不順
CV4 関元 かんげん 臍下3寸 元気・生殖・腎精の補強
CV6 気海 きかい 臍下1.5寸 体力増強・免疫力強化
CV8 神闕 しんけつ 臍の中央 冷え・虚脱・消化不良(灸に用いる)
CV12 中脘 ちゅうかん 胸骨下端と臍の中間 胃痛・消化不良・食欲不振
CV17 膻中 だんちゅう 両乳頭を結ぶ線の中央 呼吸・胸苦しさ・心の緊張
CV22 天突 てんとつ のどのくぼみ中央 咳・喘息・のどの詰まり
CV24 承漿 しょうしょう 下唇の中央下 顔面麻痺・よだれ・歯痛


関連臓腑・性質

  • 所属: 奇経八脈
  • 主な支配領域: 胸腹部・生殖器・喉・顎
  • 五行的性質: 陰
  • 表裏関係: 督脈(陽を統べる経脈)


主な症状・異常

  • 月経不順・不妊・冷え症
  • 腹痛・下痢・胃腸虚弱
  • 咳・呼吸苦・胸のつかえ
  • 更年期障害・ホルモンバランスの乱れ
  • 虚弱体質・疲労倦怠・貧血傾向
  • のどの詰まり・顔面のむくみ


養生のポイント

  • 下腹(丹田)を温め、気海・関元を意識する
  • 深い呼吸とともに腹の気を養う
  • 冷えや過労を避け、腎精を守る
  • 規則正しい睡眠・食事・月経リズムを整える
  • 心を静め、陰のエネルギー(静・滋養)を蓄える


象徴的な経穴①:関元(かんげん)

  • 位置: 臍下3寸(おへその少し下)
  • 効能: 生命力・生殖機能・免疫強化
  • 特徴: 「元気の根」。気・血・精を養い、身体の中心を温める。


象徴的な経穴②:気海(きかい)

  • 位置: 臍下1.5寸
  • 効能: 元気不足・疲労・冷え
  • 特徴: 「気の海」。生命エネルギーの集まる中心で、呼吸法や気功で重視される。


 象徴的な経穴③:膻中(だんちゅう)

  • 位置: 両乳頭を結ぶ線の中央(胸の真ん中)
  • 効能: 呼吸器・心臓・精神の安定
  • 特徴: 「気の集まる場所」。ストレス・不安・胸の圧迫感の緩和に有効。


一言まとめ

 「任脈」は“陰の母”。
胸から腹、そして生殖を潤し、生命の根を育て、心と体に安らぎを与える経脈。
温かい丹田、穏やかな呼吸が、任脈を通す第一歩。

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