髄海不足とは

髄海不足(ずいかいぶそく)とは、脳髄(=髄海)に十分な精・気・血が供給されず、脳の働きが低下した状態を指します。
東洋医学では「髄海」とは脳を中心とした中枢神経系に相当し、腎精(じんせい)から生じる髄がこれを満たしています。
したがって、腎精や気血が不足すると髄海が充たされず、めまい・健忘・集中力低下・物忘れ・耳鳴・ふらつきなどの症状が現れます。
これは主に腎精不足・気血不足・老化や慢性虚弱などにより起こる虚証です。


原因

  • 腎精の不足: 過労・房事過多・加齢・慢病によって腎精が損耗し、髄の生成が減少する。
  • 気血の不足: 脾胃虚弱や長期の病後により、髄を養う血が不足する。
  • 過度の思慮・学習・精神疲労: 気血を消耗し、脳を養えなくなる。
  • 老化: 加齢により腎精が衰え、髄海が充たされなくなる。
  • 慢性病・長期消耗: 長く続く病で精気が損耗し、髄海の不足を招く。

主な症状

  • めまい・ふらつき・頭の重さ・頭がぼんやりする
  • 健忘・物忘れ・集中力低下
  • 思考力の減退・反応の鈍化
  • 耳鳴・難聴
  • 腰膝のだるさ・力が入らない
  • 視力減退・眼のかすみ
  • 不眠・夢多・疲れやすい
  • 舌は淡、苔は薄白
  • 脈は細・弱

舌・脈の所見

  • 舌: 淡、苔薄白または少苔
  • 脈: 細・弱・虚

病理機転

  • 腎は「精を蔵し、髄を生ず」とされ、腎精は髄を生み、髄は脳を充たして精神活動を支える。
  • 腎精が不足すると髄の生成が減り、髄海が満たされなくなる。
  • 髄海の不足は脳の機能低下(健忘・めまい・集中力低下)を引き起こす。
  • 同時に気血の不足があると、脳への栄養供給がさらに乏しくなる。
  • 重症の場合、老化性変化や認知症様の症状を呈することもある。

代表的な方剤

  • 六味地黄丸(ろくみじおうがん): 腎陰不足・精血虚による頭暈・耳鳴・健忘に。
  • 左帰丸(さきがん): 腎精不足が強く、虚熱を伴わない場合。
  • 龜鹿二仙膠(きろくにせんこう): 腎精・髄の不足により、疲労・めまい・性機能低下を伴う場合。
  • 天王補心丹(てんのうほしんたん): 心腎陰虚に伴う健忘・不眠・心悸に。
  • 帰脾湯(きひとう): 気血両虚による健忘・不眠・倦怠に。
  • 補気建髄湯(ほきけんずいとう): 髄海不足・脳の疲労に適す(応用方)。

治法

  • 補腎填髄: 腎精を補い、髄海を満たす。
  • 益精養血: 精血を増やして脳髄を滋養する。
  • 健脾益気 脾胃を補い、気血の生成を助ける。
  • 寧心安神 不眠や精神不安を伴う場合に用いる。

養生の考え方

  • 十分な睡眠をとり、脳と腎精の回復を促す。
  • 過度な思考・ストレス・夜更かし・性労を避ける。
  • 黒ごま・クルミ・山薬・枸杞子・桑の実など、腎精を養う食材を摂取する。
  • 軽い運動で気血の巡りを保ち、脳への栄養を高める。
  • 長期の疲労を放置せず、休養を十分にとる。

まとめ

髄海不足とは、腎精や気血の不足により脳髄が充たされず、精神・思考・感覚の働きが低下した状態をいいます。
主症状はめまい・健忘・集中力低下・耳鳴・腰膝のだるさであり、治療の基本は補腎填髄・益精養血です。
代表方剤には六味地黄丸・龜鹿二仙膠・左帰丸などがあり、腎精を養って髄海を満たし、脳の働きを回復させることが要点です。

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