誤治とは

誤治(ごち) とは、病情の本質や証を誤って判断し、適切でない治療を行った結果、症状が悪化したり、病勢が転化・複雑化することを指します。
すなわち、辨証論治の誤りによって「虚を実とし、実を虚とする」「寒を熱とし、熱を寒とする」「表を裏とし、裏を表とする」などの誤用を犯すことをいう。
誤治は古来より医家が最も戒めるべき事として重視され、『傷寒論』『医宗金鑑』などにも詳しく論じられています。


主な原因

  • 辨証の誤り: 病邪の性質(寒・熱・虚・実)や所在(表・裏)を正確に判断できず、証を取り違える。
  • 方薬の誤用: 不適切な方剤や薬味を用いて、病邪を助長したり、正気を損なう。
  • 治法の偏り: 一つの治法に偏重し、病情の変化に応じた調整を怠る。
  • 軽率な加減: 方剤の加減・薬量を誤り、薬効が偏って副作用を生じる。
  • 患者自身の不養生: 医師の指示を守らず、飲食・情志・労倦などの面で病を助長する。

誤治の主な種類と例

  • 誤汗: 発汗すべきでない病に発汗を行い、津液を損傷する(例:陰虚発熱に麻黄湯を用いる)。
  • 誤下: 下法を誤って行い、正気を傷つける(例:気虚下痢に大承気湯を誤用)。
  • 誤吐: 嘔吐を誘発すべきでないのに吐法を行い、胃気を損なう。
  • 誤補: 実熱・痰湿に補薬を多用して、邪をさらに助長する。
  • 誤攻: 虚弱患者に攻下・瀉火を行い、元気を損なう。
  • 誤温・誤寒: 熱証に温薬を用い、または寒証に寒涼薬を用いて悪化させる。

誤治による影響

  • 病邪がさらに深部に入り、病勢が重篤化する。
  • 正気が損なわれ、虚脱や陰陽離絶に至ることもある。
  • 虚実・寒熱が錯雑し、治療が困難な複雑病態を生む。
  • 慢性化・難治化・後遺症を残す原因となる。

防止の要点

  • 辨証論治の徹底: 病因・病位・病性を総合的に判断し、証に基づく治療を行う。
  • 随証加減: 病勢の推移に応じて処方・用量を柔軟に調整する。
  • 虚実の弁別: 正気の盛衰と邪気の強弱を見極め、攻補の軽重を誤らない。
  • 寒熱の鑑別: 舌・脈・自覚症状などから寒熱の性質を明確にする。
  • 経験に依らず理に従う: 慣習や思い込みに流されず、病理と証を根拠に判断する。

代表的な古典の警句

  • 『傷寒論』:「誤治すれば、死生を分かつ」
  • 『景岳全書』:「治病は証に依る、証を誤れば薬は毒なり」
  • 『医宗金鑑』:「寒熱虚実を誤るは、病を延べて命を損ず」

養生と医療倫理の観点

  • 医師は「未病を治す」意識を持ち、軽症のうちに誤治を防ぐ。
  • 患者も自身の体調変化を正確に伝え、医療に協力する。
  • 過信・軽視・安易な自己判断を避け、常に中庸の治を心がける。
  • 医療の核心は「天人合一」の理に従い、自然の法に逆らわぬこと。

まとめ

誤治とは、辨証・方薬・治法を誤ることで病勢を悪化させる医療上の過失を指します。
中医学では「誤治は病よりも恐るべし」とされ、治療の根本は正確な辨証論治と慎重な臨機応変にあります。
誤治を防ぐためには、「虚実の弁別」「寒熱の判断」「証に基づく治療」を常に怠らないことが肝要です。

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