陰維脈

概要

陰維脈は、身体の内側(陰分)を流れる経脈を結び、心身の内的な安定を維持する脈です。
「維(い)」には「つなぐ・まとめる・保つ」という意味があり、陽維脈が外向きのエネルギーをまとめるのに対し、陰維脈は内向きのエネルギー(感情・血・精神)をつなぐ働きを持ちます。
そのため、感情や情緒、睡眠、血液の循環、内臓の協調などに深く関わります。


別名と象徴

  • 別名: 陰気をつなぐ脈
  • 象徴: 「心身の内面を結ぶ陰のネットワーク」
  • 主な働き: 内的安定・精神調和・陰血の保護・睡眠の質の維持


経絡の流れ

  • 起点: 足の太陰脾経「筑賓(ちくひん)」
  • 流れ
    内くるぶしの上 → 下腿内側 → 大腿内側 → 下腹部 → 胸腹部 →
    → 鎖骨下 → 最終的に「任脈(廉泉・天突)」へ接続します。
つまり、陰維脈は「下肢の内側から胸・心へ」と上昇し、内臓の働きと精神をまとめる路線を形成します。


主な作用

働き 内容
① 陰気・血の統合 三陰経(脾・肝・腎)を中心に、体内の血と陰液をまとめて全身に潤いを与える。
② 精神の安定 感情・思考・睡眠など、心神(しんしん)の調和を保つ。
③ 陰陽バランスの調整 陽維脈と連携して、外界の変化に対する内的安定を支える。
④ 内臓機能の連絡 胸腹部の経絡(心・肝・脾・腎)を結び、消化や循環を整える。


関連臓腑・性質

  • 所属: 奇経八脈
  • 性質: 陰
  • 主な関連経絡: 足の太陰脾経
  • 関連臓腑: 心・肝・脾・腎
  • 表裏関係: 陽維脈(外側の陽気を調整)


経穴(代表的なもの)

経穴名(読み) 所属経絡 主な効能
内関(ないかん) 手の厥陰心包経 陰維脈を開く代表穴。心神安定・不眠・胸のつかえ・吐き気。
筑賓(ちくひん) 腎経 起始部。精神疲労や情緒不安に。
府舎(ふしゃ) 脾経 胸腹部の調整。
大横(だいおう) 脾経 消化器症状・月経不順。
天突(てんとつ) 任脈 呼吸器や喉の不調に。


主な症状・異常

陰維脈が乱れると、「内的バランスの崩れ」として次のような症状が現れます。
  • 不眠・浅い眠り・夢が多い
  • 動悸・胸のつかえ
  • 感情の不安定(イライラ・落ち込み)
  • 食欲不振・胃の重だるさ
  • 月経不順・更年期症状
  • 冷えやすい・血行不良
  • 体の内側の痛み(胸・腹部)


養生のポイント

  • 睡眠リズムを整える(陰気の再生時間を確保)
  • 深呼吸・瞑想・お風呂などで心を鎮める
  • 夜は明るい光や刺激を避け、陰を養う
  • 甘いもの・温かい汁物で「脾」と「血」を補う
  • 感情を溜め込まず、ゆっくり話す・書くなどで流す


象徴的な経穴:内関(ないかん)

  • 位置: 手首のしわから上に2寸(人差し指と中指の幅2本分)、前腕内側中央。
  • 所属経絡: 手の厥陰心包経
  • 効能: 胸の不快感・動悸・不安・吐き気・不眠
  • 特徴: 陰維脈の「開穴(かいけつ)」であり、心と身体をつなぐ代表的ツボ。
「内関」は、“心の扉を内から開くツボ”。
緊張や不安をやわらげ、内側の安定(陰気)を整えます。


一言まとめ

陰維脈は「心身をつなぐ静かな糸」。
内側の陰気と血をまとめ、感情と体を調和させる。
眠れない夜、胸がざわつく時に、陰維脈を整えて“心の静けさ”を取り戻そう。

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