腹診→治法→方剤選択の思考整理

腹診は、舌診・脈診と並ぶ診断法であるが、臨床において最も直接的に治法と方剤選択へ結びつくのが腹診である。

本章では、腹所見 → 病機 → 治法 → 方剤方向性という思考の流れを整理し、「なぜその処方になるのか」が説明できる形でまとめる。



① まず腹力で大枠を決める

治法選択の第一段階は、腹力による虚実判定である。

  • 腹力充実・板状:実証 → 瀉法・攻法を検討
  • 腹力中等:虚実錯雑 → 和法・調整法
  • 腹力軟弱:虚証 → 補法中心

この段階で無理に細かい鑑別を行わず、「攻めるか、和すか、支えるか」を決めることが重要である。



② 寒熱で治法の方向性を修正する

次に腹部の冷感・熱感から、温めるか、冷ますかを判断する。

  • 冷腹:温中・温経・散寒
  • 熱腹:清熱・瀉火・和解
  • 寒熱錯雑:和解・調和

寒熱の判断は、舌苔・脈数と必ず照合し、見かけの熱・仮性の寒に注意する。



③ 圧痛・結滞から病邪の性質を定める

圧痛や硬結は、具体的な病邪の存在を示す。

  • 膨満・張り:気滞 → 理気
  • 限局圧痛・硬結:瘀血 → 活血
  • 軟らかい膨満:痰湿・水飲 → 化痰・利水

ここで初めて、「何を動かすのか」が明確になる。



④ 部位で臓腑・層を確定する

腹部区分により、どの臓腑・どの病位かを最終的に絞り込む。

  • 心下:脾胃・中焦 → 和中・降逆
  • 季肋:肝胆・少陽 → 疏肝・和解
  • 臍周:脾腎・気血 → 補気・活血
  • 少腹:腎・血分 → 温補・活血


⑤ 代表的腹証から処方群を想定する

腹証が明確な場合は、処方の「系統」を意識すると選択が速くなる。

  • 心下痞:半夏瀉心湯系・和解剤
  • 心下硬:大柴胡湯系・瀉下剤
  • 臍傍圧痛:桂枝茯苓丸系・活血剤
  • 少腹急結:桃核承気湯系・逐瘀剤

ここで重要なのは、処方名を決めに行くのではなく、方向性を合わせることである。



⑥ 舌脈で最終調整を行う

最後に舌診・脈診を用いて、補瀉の強さ・寒熱の偏りを微調整する。

  • 舌が淡・脈が弱 → 補法を強める
  • 舌が紅・脈が数 → 清熱を意識
  • 脈が緊 → 散寒・緩解を追加


⑦ 思考整理のまとめ

腹診を起点とした治療思考は、

  1. 腹力で虚実を決め
  2. 寒熱で方向を定め
  3. 圧痛・結滞で病邪を特定し
  4. 部位で臓腑を確定し
  5. 腹証で処方群を想定し
  6. 舌脈で微調整する

この流れを踏むことで、腹診は「感覚」から「再現性のある臨床判断」へと昇華する

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