概念
潤肺益胃（じゅんぱいいき）とは、 肺と胃の陰液を滋養し、乾燥や虚熱を鎮める治法である。 肺は気を主り、胃は受納・腐熟を司るが、どちらも津液を必要とする臓腑である。 熱邪・燥邪・長病・過労などによって陰液が損傷すると、 肺陰不足による乾咳や喉の渇き、胃陰不足による口渇・食欲不振・胃痛などが現れる。 これに対し、潤いを補って津液を回復し、肺と胃の機能を回復させるのが潤肺益胃法である。
所属
効能
- 潤肺止咳：肺陰不足による乾咳・咽喉の乾きを和らげる。
- 益胃生津：胃陰不足による口渇・食少・胃部灼熱感を改善する。
- 清熱養陰：虚熱や燥熱を鎮めて陰液を保つ。
- 除煩止渇：津液の不足による煩躁・のどの渇きを鎮める。
主治
- 肺胃陰虚：咽喉乾燥・乾咳・声枯・口渇・食欲不振。
- 温熱傷陰：熱病後の口乾・咳嗽・舌紅少苔・脈細数。
- 胃陰不足：胃部の灼熱感・嘔気・消化不良・舌乾。
- 慢性咽喉炎：乾燥感・刺激性咳・声のかすれ。
病機
熱邪・燥邪・長病などにより、肺胃の陰液が消耗すると、 津液が不足して臓腑の潤いが失われる。 その結果、肺は粛降を失い乾咳を生じ、胃は受納を失って口渇・食少を呈する。 したがって、滋陰潤燥して肺胃を潤し、生津を復することが治療の中心となる。
代表方剤
- 沙参麦門冬湯（しゃじんばくもんどうとう）：肺胃陰虚による乾咳・口渇・のどの乾き。
- 益胃湯（えきいとう）：胃陰不足による口渇・咽乾・煩熱・食欲不振。
- 清燥救肺湯（せいそうきゅうはいとう）：温燥傷肺による乾咳・痰少・口舌乾燥。
- 養陰清肺湯（よういんせいはいとう）：陰虚火旺による咽痛・乾咳・血痰。
応用
- 慢性気管支炎・咽喉炎・肺結核・気管支拡張症
- 慢性胃炎・萎縮性胃炎・逆流性食道炎などの胃陰虚型
- 熱病後の脱水や体液不足、放射線治療後の口渇
- 乾燥性皮膚疾患・声枯れ・乾性咳嗽などの燥症
使用上の注意
- 痰湿が多い場合は、潤い過ぎて痰を助長するため、理気化痰薬を併用する。
- 外感表証の初期には使用を避け、邪が去った後に用いる。
- 陰虚火旺が著しいときは、滋陰清熱薬（知母・黄柏など）を加える。
まとめ
潤肺益胃法は、肺と胃の陰液不足による乾燥・咳嗽・口渇・咽痛などを治す基本法である。 滋陰生津・潤燥止咳を主とし、代表方剤には沙参麦門冬湯・益胃湯・清燥救肺湯などがある。 特徴は、乾燥・虚熱・陰虚を伴う症状を緩やかに潤して回復させる点にある。
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