肝陰不足(かんいんぶそく) とは、肝に貯えられる「陰液(血・津液)」が不足し、肝の滋養・柔潤作用が失われた状態を指します。
肝は血を蔵し、筋や目を養う臓であるため、陰血の不足によって筋肉のこわばりや目の乾燥、いらいら、不眠などが生じます。
慢性的な疲労や過労、情志の不調、加齢、熱病後の陰液損耗などによって発生しやすい病態です。
原因
- 長期の過労: 精血が消耗し、肝血・肝陰が不足する。
- 慢性疾患や熱病後: 体液が損耗し、肝の陰分が枯渇する。
- 情志の失調: 怒りや緊張などによる肝気鬱結が長引くと、陰血が損なわれる。
- 加齢・体質要因: 老化や体質的な陰虚傾向により肝陰が減少する。
- 睡眠不足・夜更かし: 肝血の生成が妨げられ、陰が養われない。
主な症状
- 目の乾燥・かすみ、視力低下
- 筋肉のひきつり・こむら返り
- めまい、耳鳴り
- 顔や手足のほてり、のぼせ
- いらいら、不眠、夢が多い
- 月経量が少ない、周期の遅延(女性)
- 舌や皮膚の乾燥、爪の変形・割れ
舌・脈の所見
- 舌: 紅少苔、または舌質やや痩、乾燥気味
- 脈: 細弦または数
代表的な方剤
- 一貫煎(いっかんせん): 肝腎陰虚に用い、口乾・目の乾き・胸脇の不快に適する。
- 杞菊地黄丸(こぎくじおうがん): 肝腎陰虚による目の疲れ・かすみに用いる。
- 四物湯(しもつとう): 肝血不足を基調とする月経異常や皮膚の乾燥に適する。
- 加味逍遙散(かみしょうようさん): 肝陰不足に情志不安・いらいら・のぼせを伴う場合に用いる。
- 知柏地黄丸(ちばくじおうがん): 肝腎陰虚に虚熱が加わり、ほてり・盗汗を伴うときに使用。
養生の考え方
- 十分な睡眠をとり、夜更かしを避ける
- ストレスを溜めず、情緒を安定させる
- 激しい運動よりも穏やかな気功・ストレッチなどを行う
- 目の酷使を避ける(長時間の画面作業など)
- 滋陰・養血作用のある食材(クコの実、黒ゴマ、ほうれん草、豚レバー、なつめなど)を取り入れる
まとめ
肝陰不足とは、肝の陰血が不足してその滋養作用が低下し、目・筋・情志などに虚熱や乾燥の症状を呈する病態です。
治療・養生の基本は「滋陰養肝」「柔肝熄風」であり、陰液を養って肝を潤すことが重要です。
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