概要
温肺化飲（おんぱいかいん）とは、 肺中の寒飲（かんいん：寒湿性の痰飲）を温めて化し、痰を除き、咳嗽・喘息を改善する治法である。 ここでの「温」は温陽・散寒を意味し、「化飲」は痰飲（稀薄な痰液）が停滞している状態を除くことを指す。 主として寒飲内停・肺陽不足・痰湿壅肺などによる咳嗽・喘息・胸満などに応用される。
寒邪が肺に侵入したり、脾腎陽虚により水液の運化が失調すると、 津液が内停して「飲」と化し、肺中に滞る。 これにより肺気の宣発・粛降が阻まれ、咳嗽・痰多・胸悶・喘鳴を呈する。 温肺化飲法はこのような状態に対して、温陽散寒・化痰降逆を行い、 肺気を通利して呼吸を改善する。
主な適応症状
- 咳嗽・喘息（痰が多く、白色・稀薄）
- 胸悶・胸痛・息切れ
- 寒気・無汗・手足の冷え
- 舌淡・苔白滑・脈沈遅または弦滑
- 咳嗽時に水泡音（痰鳴）を伴う
典型的には、寒飲咳嗽・寒痰壅肺・肺陽不足による慢性咳嗽などである。
主な病機
- 寒邪犯肺：外感寒邪が肺を束縛し、肺気の宣降が失調して痰飲を生ずる。
- 脾腎陽虚：水液の運化失調により痰飲が生じ、それが上逆して肺を犯す。
- 痰飲壅肺：寒湿痰飲が肺内に停滞し、咳嗽・喘息・胸悶を呈する。
したがって、治療では温陽散寒を主とし、化痰・降気を兼ねて施す。
主な配合法
- 温肺化飲＋止咳平喘：寒痰による喘息・咳嗽（例：小青竜湯）。
- 温肺化飲＋補脾利水：脾陽虚による痰湿（例：苓甘五味姜辛湯）。
- 温肺化飲＋益気養陰：久咳で陰虚を伴う場合（例：人参湯合麦門冬湯）。
- 温肺化飲＋温腎納気：腎不納気による喘息（例：金匱腎気丸合蘇子降気湯）。
- 温肺化飲＋清化痰熱：寒飲が久しく化熱した場合（例：小青竜湯加石膏）。
代表的な方剤
- 小青竜湯（しょうせいりゅうとう）：解表散寒・温肺化飲。外感風寒＋内停飲の代表方。
- 苓甘五味姜辛湯（れいかんごみきょうしんとう）：温肺化飲・利水消痰。慢性寒痰・気逆に用いる。
- 蘇子降気湯（そしこうきとう）：降気平喘・化痰止咳。寒痰壅盛による咳喘に。
- 射干麻黄湯（やかんまおうとう）：温肺降気・化痰止咳。寒痰咳嗽で咽喉に痰が絡む場合。
- 乾姜細辛半夏湯（かんきょうさいしんはんげとう）：温肺化痰・止咳。老年性慢性気管支炎などに。
臨床でのポイント
- 痰が白く稀薄で量が多い場合は「寒飲」とみなして温化を要する。
- 舌苔が白滑・脈沈遅の場合は寒痰が明確。
- 寒痰が肺気を阻むと、呼吸困難・咳喘・痰鳴などが出現する。
- 温化の際には過剰な温燥薬を避け、体力に応じて用いる。
- 慢性喘息や老年性気管支炎で、冷気により悪化する例によく用いられる。
まとめ
温肺化飲法は、肺中の寒飲・痰湿を温めて化し、咳嗽・喘息を治す治法である。 主な方剤には小青竜湯・苓甘五味姜辛湯・蘇子降気湯などがあり、 寒痰壅肺・肺陽虚寒による咳嗽・喘息に応用される。 治療の要点は「温陽散寒・化痰降気」であり、 肺気の宣発・粛降を回復して呼吸を安定させることにある。
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