概要
駆虫殺蟲(くちゅうさっちゅう)とは、体内に寄生する虫(寄生虫)を駆除し、虫による腹痛・食欲異常・痩削などの症状を治す治法である。 中医学では「蟲証(ちゅうしょう)」と呼ばれ、主に回虫・鉤虫・蟯虫などの寄生虫感染によって生じる病証を指す。 本法では、寄生虫を殺す「殺蟲」と、体外に排出させる「駆虫」の二面を合わせて治療を行う。
虫は多くの場合、脾胃虚弱や飲食不節、幼児期の消化機能未熟などによって発生・繁殖しやすくなる。 そのため、駆虫だけでなく、脾胃を健やかに保つこと(健脾)が再発防止においても重要とされる。
主な適応症状
- 腹痛(特に臍周囲の疼痛)
- 食欲不振または異常な食欲(多食・偏食)
- 顔色萎黄・やせ・倦怠感
- 悪心・嘔吐・下痢・便中に虫が見える
- 夜間の歯ぎしり・寝汗・不安感
これらは、寄生虫が腸内に棲みつき、脾胃の機能を損ね、気血の生成を妨げることで生じる。 特に小児に多く見られる。
主な病機
- 虫積腸中:腸内の寄生虫が増殖し、腹痛・食欲異常を引き起こす。
- 虫擾脾胃:虫の動きが胃腸を刺激し、悪心・嘔吐・腹鳴を生じる。
- 脾胃虚弱:虫の発生・再感染を助長する体質的要因。
- 血虚生風:虫による長期の栄養障害から、体力低下・皮膚掻痒などを伴う。
したがって治療では、殺蟲・駆虫を行うとともに、脾胃を健やかにし、虫の再発を防ぐことが重視される。
主な配合法
- 駆虫殺蟲+健脾養胃:虫を駆除しつつ、脾胃虚弱を改善(例:使君子散)。
- 駆虫殺蟲+理気止痛:虫の動きによる腹痛を和らげる(例:烏梅丸)。
- 駆虫殺蟲+安神鎮驚:虫擾心神による不安・夜泣き・歯ぎしりに(例:烏梅丸変方)。
- 駆虫殺蟲+清熱燥湿:虫積と湿熱の内生を伴うとき(例:雷丸+苦楝皮)。
- 駆虫殺蟲+補血益気:虫による長期の貧血・衰弱に(例:駆虫後に四君子湯などを併用)。
代表的な方剤
- 使君子散(しくんしさん):健脾殺蟲。小児の回虫症に広く用いられる。
- 烏梅丸(うばいがん):安蛔止痛・温中安神。蛔虫による腹痛・悪心・嘔吐・精神不安に。
- 雷丸(らいがん):殺蟲消積。鉤虫・条虫などの消化器寄生虫に用いる。
- 苦楝皮(くれんぴ):清熱燥湿・殺蟲。広範な駆虫作用をもつ。
- 槟榔(びんろう):行気導滞・殺蟲・下気。駆虫とともに腸管蠕動を促進する。
臨床でのポイント
- 小児の腹痛・食欲異常・痩せには寄生虫の有無を考慮する。
- 駆虫薬使用後は脾胃を整えることが再発防止に重要。
- 虫による腹痛には烏梅・蜀椒などで温中止痛を併用する。
- 長期感染では気血両虚となるため、補気・補血薬を後用する。
- 駆虫治療は休薬間隔を設け、体力消耗を避ける。
まとめ
駆虫殺蟲法は、体内の寄生虫を殺し・排出させて、脾胃の機能を回復させる治法である。 代表方剤には使君子散・烏梅丸・雷丸・苦楝皮などがあり、 腹痛・食欲異常・痩削・精神不安などの虫積症に用いられる。 治療の要点は、駆虫と同時に脾胃を健やかにし、気血を補って再発を防ぐことである。
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