心火上炎(しんかじょうえん)とは、心に過剰な火(熱)が生じ、上焦(頭・顔・舌・口)に炎上する状態を指します。
心は神志(精神活動)を主り、血脈を司るため、その火が旺盛になると、精神不安・不眠・口舌生瘡・顔面紅潮・心煩などの症状が現れます。
主に情志刺激・過度の思慮・熱邪の内侵・辛熱の過食などが原因で起こり、いわゆる「心熱」「心火亢盛」とも呼ばれます。
原因
- 情志刺激: 怒り・焦り・緊張などによる肝火の上炎が心に波及する。
- 思慮過多・精神過労: 心神を損傷し、火熱が内生する。
- 熱邪の侵入: 外感熱邪が心包や心に入り、火熱化する。
- 飲食不摂・辛熱の過食: 胃熱・肝火が盛んになり、心火へ波及。
- 陰虚火旺: 陰液不足により、虚火が心に上炎する。
病理機転
- 心は火に属し、情志や熱邪の刺激で火が過盛になると、上焦へ炎上する。
- 火熱が血分に及ぶと、血行促進・出血傾向・心煩不寧が現れる。
- 舌・口・咽頭など上部に炎症・潰瘍・口渇が生じやすくなる。
- 重度では心神を擾乱し、不眠・多夢・焦躁・狂躁を引き起こす。
主な症状
- 心煩・焦燥・不眠・多夢・イライラ
- 顔面紅潮・目の充血・口渇・口臭
- 口舌生瘡・口内炎・咽喉痛
- 尿赤短・排尿痛・時に血尿
- 便秘・体熱感・手足のほてり
- 舌紅・苔黄、脈数・有力
舌・脈の所見
- 舌: 紅、苔黄、尖紅または舌尖に紅点
- 脈: 数・滑・有力
代表的な方剤
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう): 心火旺盛による煩熱・不眠・口舌生瘡に。
- 導赤散(どうせきさん): 心火が小腸に伝わり、尿赤・口渇を伴う場合。
- 瀉心湯(しゃしんとう): 心胃の実火による心煩・口苦・嘔吐などに。
- 朱砂安神丸(しゅしゃあんじんがん): 心火上炎による不眠・動悸・精神不安に。
- 清心蓮子飲(せいしんれんしいん): 心火と腎陰虚を兼ねる虚実夾雑型に。
治法
- 瀉心火: 心の実火を清瀉し、熱を鎮める。
- 安神寧心: 心火による神志不安・不眠を鎮める。
- 清熱利尿: 心火が小腸へ伝わる場合、利尿で火熱を排出する。
- 養陰清熱: 陰虚火旺を兼ねる場合は、陰液を補って虚火を鎮める。
養生の考え方
- 精神的な興奮・緊張・怒りを避け、心を安定させる。
- 辛熱・油腻・刺激物(唐辛子・酒・コーヒーなど)を控える。
- 十分な睡眠を取り、夜更かしを避ける。
- 涼性・甘潤の食材(蓮の実・百合根・梨・蜂蜜・緑豆・苦瓜など)を摂取する。
- 瞑想・深呼吸・静養で心神を鎮める。
まとめ
心火上炎とは、心に熱が亢進して上焦に炎上する病態です。
精神的興奮・情志失調・熱邪・辛熱の過食などが誘因となり、心煩・不眠・口舌生瘡・顔面紅潮などが現れます。
治療の要点は「瀉心火・安神寧心」であり、心火を鎮めて神志を安定させ、心の平静と清涼を回復させます。
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