温胆湯とは

温胆湯(うんたんとう)

概要

温胆湯は、宋代の《三因極一病証方論》に初出する方剤で、 主として痰熱内擾(たんねつないじょう)による心神不寧・嘔吐・不眠などを治す代表処方である。 「温胆」とは「胆を温める」という意味だが、実際には「胆胃の気機を調え、痰熱を化す」ことを指す。 すなわち、単に温めるのではなく、理気化痰和胃降逆の作用を主とする。


分類

理気化痰剤(りきかたんざい)


効能

  • 理気化痰(りきかたん):痰を除き、気機の停滞を解く。
  • 和胃降逆(わいこうぎゃく):胃気の逆上を整えて嘔吐を止める。
  • 清胆和中(せいたんわちゅう):胆胃の不和を正し、心神を安定させる。

主治

痰熱擾心胆胃不和による以下のような症状:

  • 不眠・多夢・驚きやすい・焦燥感
  • 胸悶・胸脇の張り・嘔気・食欲不振
  • 頭重・めまい・動悸・口苦
  • 吐痰が多く、粘稠で黄色い
  • 舌苔は黄膩、脈は弦滑

すなわち、痰熱が内にこもって胆胃を乱し、心神を擾乱するために生じる精神神経症状や消化器症状を目標とする。


病機解説

  • 肝鬱・気滞・過度の思慮などにより、胆胃の気機が失調する。
  • 湿が化して痰となり、痰が熱を帯びると痰熱が胆胃を擾乱する。
  • 胆は決断を司り、痰熱が胆を乱すと「驚悸・不眠・不安」などの精神症状が現れる。
  • 胃気が乱れると「悪心・嘔吐・食欲不振・胸満」などの症状を呈する。

組成(原方)

  • 半夏(はんげ)
  • 竹茹(ちくじょ)
  • 枳実(きじつ)
  • 陳皮(ちんぴ)
  • 茯苓(ぶくりょう)
  • 甘草(かんぞう)
  • 生姜(しょうきょう)
  • 大棗(たいそう)

※後世方として、心神不寧を主とする場合は「枳実・陳皮・竹茹・茯苓・半夏・甘草」に加え、遠志・酸棗仁・人参などを加味した加味温胆湯が広く用いられる。


方義(方剤の構成意図)

  • 半夏・竹茹:痰を化し、胃気の逆を下す。
  • 枳実・陳皮:理気し、痰滞を除く。
  • 茯苓:健脾滲湿して痰源を絶つ。
  • 甘草・生姜・大棗:脾胃を調和し、諸薬を和する。

加減例

  • 不眠・心煩・焦燥:酸棗仁、遠志、竹葉を加える(加味温胆湯)。
  • めまい・動悸:釣藤鈎、夜交藤を加える。
  • 痰多・胸悶:瓜蔞仁、枳殻を加える。
  • 食欲不振・胃のつかえ:砂仁、白朮を加える。

現代応用

現代臨床では、以下のような病態に応用される:

  • 神経症・不眠症・不安障害
  • うつ状態・自律神経失調症
  • めまい症・メニエール病・片頭痛
  • 慢性胃炎・機能性ディスペプシア・悪心・嘔吐
  • 心身症・更年期障害に伴う精神不安や動悸

使用上の注意

  • 虚証で寒が強い場合には適さない(寒痰・脾胃虚寒には不向き)。
  • 痰熱が著しくない場合は、清熱化痰薬を多用すると胃気を損ねやすい。
  • 長期服用の際は脾胃虚弱に注意し、必要に応じて補気健脾薬を併用する。

まとめ

温胆湯は、痰熱擾心胆胃不和を治す代表的方剤であり、 「理気化痰和胃降逆」を主とする。 精神的な不安・不眠・めまい・悪心など、心神と消化器の両面に現れる症状を調える。 加味温胆湯は特に現代のストレス性・神経症性症状に広く応用されている。

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