腎陰不足(じんいんぶそく) とは、腎に蓄えられる陰液(精・血・津)が不足し、身体の滋潤・冷却作用が低下した状態を指します。
腎陰は全身の陰液の根源であり、その不足は肝・心・肺など他の臓腑にも影響し、虚熱(ほてり)や口渇、めまい、不眠などの症状を引き起こします。
主に慢性疾患、過労、房事過多、加齢、情志失調などによって生じます。
原因
- 久病・過労: 長期間の病気や過度の労働により陰液が消耗する。
- 房事過多: 性生活の過剰により腎精を損傷し、腎陰を失う。
- 加齢: 年を重ねるにつれ、腎精とともに腎陰も減少する。
- 情志の失調: 精神的ストレスにより肝腎の陰血が損なわれる。
- 発熱性疾患の後: 長引く熱病により体液や陰が消耗される。
主な症状
- 腰や膝のだるさ、力が入らない
- めまい、耳鳴り、難聴
- 口や咽喉の乾燥、五心煩熱(手足や胸のほてり)
- 不眠、夢が多い
- 盗汗(寝汗)、午後の微熱
- 顔や頬の紅潮、のぼせ
- 尿が黄色く少ない、便秘傾向
- 男性では遺精、女性では月経量少・閉経傾向
舌・脈の所見
- 舌: 紅色、苔は少または無苔、乾燥気味
- 脈: 細数または虚数
代表的な方剤
- 六味地黄丸(ろくみじおうがん): 腎陰虚の基本方。慢性疲労・めまい・耳鳴りなどに。
- 知柏地黄丸(ちばくじおうがん): 陰虚に虚熱・のぼせ・口渇が強い場合に。
- 杞菊地黄丸(こぎくじおうがん): 腎陰虚に伴うめまい・視力低下に適する。
- 左帰丸(さきがん): 陰精不足が著しく、虚熱・体力低下を伴う場合に。
- 一貫煎(いっかんせん): 肝腎陰虚による胸脇痛・口乾・虚熱に。
養生の考え方
- 夜更かしを避け、十分な休息をとる
- 性の節制を守り、腎精の消耗を防ぐ
- 辛いもの・油っこいもの・刺激物を控える
- 滋陰養腎の食材(黒ごま、クコの実、山芋、百合根、すっぽんなど)を摂取する
- 精神を穏やかに保ち、ストレスをためない
まとめ
腎陰不足とは、腎の陰液(精・血・津液)が減少し、滋潤・冷却作用が低下した状態で、虚熱・のぼせ・口渇・不眠などを呈します。
治療・養生の基本は「滋陰補腎」「清虚熱」であり、体液を養い、虚熱を鎮めることを目的とします。
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