概要
温中化飲(おんちゅうかいん)とは、 中焦(脾胃)を温めて寒邪を除き、水飲(すいいん)を化して散ずる治法である。 「水飲」とは、体内に停滞した病的な水液であり、 寒邪や陽気不足によって脾胃の運化が失調し、水湿が停滞・凝結して痰飲となる。 この状態では、咳嗽・悪心・胃内振水音・めまいなどが見られる。 温中化飲法は、温薬で脾胃を温め、寒を散じて水飲を動かすことを目的とする。
主として脾胃陽虚・寒飲内停の証に用いられ、 寒が中心にある痰飲・水湿停滞の病態に対して施す。 「温中」により陽気を回復させ、「化飲」により停滞した水を運行させる。
主な適応症状
- 咳嗽・痰多・痰が白く薄い・泡沫状
- 悪心・嘔吐・胃内振水音(ちゃぷちゃぷ音)
- めまい・動悸・胸満・脇痛
- 四肢の冷え・倦怠・寒がり
- 舌淡・苔白滑・脈沈遅または滑
これらは、脾胃の陽気が不足して水液の運化が失調し、水飲が内停することで起こる。 寒邪の影響が強い場合、冷え・悪寒・痰飲などが顕著になる。
主な病機
- 脾胃陽虚 → 運化失職 → 水湿停滞。
- 寒邪内侵 → 水液凝滞 → 痰飲形成。
- 寒飲上逆 → 嘔吐・咳嗽・めまい。
したがって温中化飲法は、中焦を温めて寒を除き、水飲を化して停滞を解消することを目的とする。 すなわち「温陽化飲・行水散寒」を基本とする。
主な配合法
- 温中化飲+温肺化痰:寒痰による咳嗽・喘息(例:小青竜湯)。
- 温中化飲+降逆止嘔:寒飲が上逆して嘔吐する場合(例:小半夏加茯苓湯)。
- 温中化飲+健脾利湿:脾虚による水湿停滞・下痢(例:苓桂朮甘湯)。
- 温中化飲+補腎助陽:腎陽虚を伴い浮腫・冷えが強い場合(例:真武湯)。
- 温中化飲+行気寛胸:痰飲が気滞を起こす場合(例:二陳湯+乾姜・桂枝)。
代表的な方剤
- 小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう):温中化飲・降逆止嘔。胃内に水飲があり、嘔吐・悪心に用いる。
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう):温肺化飲・止咳平喘。寒飲による咳嗽・喘鳴に適す。
- 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):温陽化飲・健脾利水。めまい・動悸・胸満に用いる。
- 真武湯(しんぶとう):温陽利水・健脾補腎。脾腎陽虚による浮腫・下痢・倦怠に。
- 苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんかにんとう):温肺化飲・祛寒止咳。寒痰咳嗽に適す。
臨床でのポイント
- 寒が主体で、痰が白く・泡沫状・量が多い場合に適す。
- 舌質淡・苔白滑・脈沈遅を指標とする。
- 冷えが著しい場合は附子・乾姜で温陽を強める。
- 嘔吐を伴う場合は半夏・茯苓で化飲止嘔を兼ねる。
- 熱象を伴うときは用いず、清熱化痰法に転じる。
まとめ
温中化飲法は、寒邪や脾胃陽虚によって停滞した水飲を温めて化し、気機を回復させる治法である。 代表方剤は小半夏加茯苓湯・小青竜湯・苓桂朮甘湯・真武湯などで、 その要点は「温中散寒・化飲行水」にある。 寒と痰飲が共存する病態の基本治法として、臨床上きわめて重要である。
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