半夏瀉心湯（はんげしゃしんとう）

📘 基本情報

項目	内容
方剤名	半夏瀉心湯（はんげしゃしんとう）
出典	『傷寒論』
分類	調和少陽・和胃降逆剤
構成生薬	半夏・黄芩・乾姜・人参・大棗・甘草・黄連
方名の由来	半夏を主薬とし、心下（みぞおち）を「瀉（しゃ）」する＝つかえを除く意から。

🧭 方意（効能と主治）

区分	内容
効能	和胃降逆・散結除痞・清熱燥湿
主治	胃腸の不調・心下痞硬（みぞおちのつかえ）・嘔吐・下痢・食欲不振・腹鳴など。 冷熱錯雑・気滞・水滞が同時に存在する「虚実錯雑証」に適す。
病機	外邪が少陽経を犯し、または誤治により、胃腸の気機が失調して気滞・湿滞・熱が錯綜。 そのために心下（みぞおち）に痞（つかえ）を感じ、嘔吐・下痢などの症候が現れる。

💊 構成生薬と作用

生薬	主な作用
半夏	降逆止嘔・燥湿化痰。胃気を整える主薬。
黄芩	清熱燥湿・解毒。腸内の熱を取り炎症を鎮める。
黄連	清熱瀉火・除煩。上焦の熱を冷まし心下のつかえを除く。
乾姜	温中散寒。冷えによる胃腸機能低下を補う。
人参	益気健脾。消化吸収力を高める。
大棗	健脾和胃・薬性の調和。
甘草	調和諸薬・緩急止痛。全体のバランスを取る。

🌡 臨床的特徴

観点	内容
症状の特徴	・みぞおちのつかえ感、膨満感 ・悪心・嘔吐、げっぷ、食欲不振 ・下痢または軟便、腹鳴、ガス ・口の苦み、口内炎、舌の粘り ・体力中等度で、冷えと熱が混じるタイプ
体質傾向	胃腸が弱く、ストレスや不摂生で胃の働きが乱れやすい人。 体力は中程度～やや虚弱で、冷え・のぼせの両方を訴えることがある。
舌象・脈象	舌：淡紅で白黄苔。 脈：弦・滑。

🩺 現代医学的応用

• 慢性胃炎・胃アトニー・神経性胃炎
• 過敏性腸症候群（IBS）
• 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
• 口内炎・逆流性食道炎
• 吐き気・嘔吐・二日酔い
• 抗がん剤・薬剤による消化器副作用の緩和

⚖️ 類方・比較

方剤	特徴・鑑別点
生姜瀉心湯	水分代謝障害が強く、腹鳴・下痢・嘔吐を伴う場合。
甘草瀉心湯	腸内の熱・潰瘍傾向が強く、口内炎や血便を伴う場合。
黄連湯	冷えが強く、嘔吐や下痢が主症状のとき。
小柴胡湯	悪寒・発熱・口苦など少陽病症状が中心のとき。

⚠️ 使用上の注意

• 過度な虚証（著しい冷え・倦怠）には不向き。
• 食事の不摂生・ストレス・暴飲暴食がある場合は、生活指導を併用。
• 長期連用時は、乾燥傾向（口渇・便秘）に注意。

📖 メモ（臨床要点）

• 「冷え＋熱」「虚＋実」が混在する胃腸障害に用いる。
• 心下痞（みぞおちのつかえ）があるのが最大の目標。
• ストレス性胃炎・機能性ディスペプシアに極めて有効。
• 「胃腸をなだめる漢方」として、現代臨床でも使用頻度が高い。