安中散

東洋医学(漢方)の方剤まとめ — 温中散寒・和胃止痛の代表方剤

基本情報

方剤名 安中散(あんちゅうさん)
出典 《万病回春》
分類 温中散寒剤
保険適用エキス製剤(例) ツムラ54・クラシエ54 等
構成生薬 桂枝、延胡索、牡蛎、茴香、甘草、縮砂、良姜

方意(効能・主治)

  • 効能:温中散寒、和胃止痛(中焦を温めて寒を散じ、胃痛を和らげる)
  • 主治:胃脘痛(みぞおちの痛み)、心窩部痛、冷えによる胃腸の不調
  • 病機:脾胃虚寒・寒が中焦に滞り気機が鬱して痛みを生ずる
  • 現代的適応:慢性胃炎、神経性胃炎、胃痛、吐き気、食欲不振、胸やけ(特に冷えを伴う場合)

臨床的特徴

使用目標(証) 胃痛があり温めると楽になる。冷えると悪化し、げっぷや胸やけを伴うことがある。虚弱で冷え性の人に適する。
体質傾向 虚証・寒証寄り
腹証・舌脈 心下部の抵抗や圧痛、淡白舌・白苔、脈は沈細または弱

構成生薬と主な作用

生薬名 主要作用
桂枝(けいし) 温経散寒、通陽化気。胃の冷えを除く。
延胡索(えんごさく) 理気活血、止痛。胃痛緩和。
牡蛎(ぼれい) 制酸・鎮静・収斂。胸やけや胃酸過多を改善。
茴香(ういきょう) 温中理気。腹部の冷えに有効。
甘草(かんぞう) 諸薬を調和し、緩急止痛作用を持つ。
縮砂(しゅくしゃ) 理気和胃、止嘔(嘔吐を抑える)。
良姜(りょうきょう) 温胃散寒。胃を温める。

現代医学的な理解

  • 消化管運動の調整作用
  • 胃酸分泌抑制(牡蛎・甘草などによる影響)
  • 鎮痛・鎮痙作用(延胡索など)
  • 自律神経の調整(ストレス性胃炎や冷えを伴う症状に有効)

使用上の注意

  • 胃熱・食滞・実証の胃痛(口苦、舌紅・黄苔など)には不適。
  • 甘草を含むため、長期大量投与は偽アルドステロン症(浮腫・低K血症・高血圧等)に注意。
  • 妊婦・授乳中の使用や他薬との併用については医師・薬剤師に相談すること。

臨床応用例

以下のようなケースで用いられることが多いです。

  • 冷えでシクシクとしたみぞおちの痛みがある場合。
  • ストレス性胃痛で温めると楽になるタイプ。
  • げっぷや胸やけを伴うが、全体に冷えが目立つ場合。

類方との鑑別

比較方剤 相違点
六君子湯 食欲不振や倦怠感を伴う脾胃虚弱が主。冷えよりも消化吸収機能低下が中心。
人参湯(例) 強い下痢・嘔吐など虚寒が強い場合に用いることが多く、安中散より寒が強い。
柴胡桂枝湯 胸脇苦満や気鬱が主要症状で、冷えよりも気の鬱滞を主に治療する。

メモ:「安中」は「中焦(胃腸)を安んずる」ことを意味します。痛みを温めて止める方剤として臨床で広く用いられます。

(注)本稿は教育目的のまとめであり、診断・処方は医師・漢方専門医の判断に従ってください。

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