房労(ぼうろう)とは、性生活の過度・不節制(房事過多、精の過耗)によって正気が損なわれ、特に腎精・腎気・腎陰陽が消耗する状態を指す中医学の病因・病証用語です。
「房事は腎を傷る」といわれ、房労は虚労(慢性消耗性病態)の重要な原因の一つとされます。
主な原因
- 房事過多: 性生活の頻度が過剰で、精気の回復が追いつかない。
- 体力低下時の房事: 疲労・病後・老化により正気が虚した状態での房事。
- 早婚・多産: 腎精の消耗が長期に及ぶ。
- 先天不足: 体質的に腎精が弱く、房労の影響を受けやすい。
病理機転
- 房事過度により腎精が消耗し、腎の蔵精機能が低下する。
- 腎精不足は腎陰・腎陽の失調を招き、全身の陰陽平衡が崩れる。
- 腎虚が長期化すると、腰膝・脳・耳・生殖機能に影響が及ぶ。
主な症状
- 腰膝酸軟、倦怠感、疲れやすい
- 性機能低下(陽萎、早泄、遺精、月経異常、不妊など)
- 健忘、眩暈、耳鳴り
- 顔色不良、精神不振
- 腎陰虚では五心煩熱・盗汗、腎陽虚では畏寒・四肢冷え
舌・脈の所見
- 舌: 淡〜紅、少苔(陰虚)または胖大・歯痕(陽虚)
- 脈: 沈細・虚弱
証型別の鑑別
代表的な方剤
- 六味地黄丸: 腎陰虚による房労。
- 八味地黄丸: 腎陽虚による房労。
- 左帰丸: 腎精・腎陰の著しい不足。
- 右帰丸: 腎陽衰弱を伴う重度の房労。
治法
- 補腎益精: 腎精を補い、生殖・生命力を回復させる。
- 滋陰助陽: 陰陽の偏りを是正する。
- 固摂止泄: 精の漏出を防ぐ。
養生の考え方
- 房事の節制を守り、十分な休養をとる。
- 過労・夜更かしを避ける。
- 黒豆、胡桃、山薬、枸杞子、海参など腎を補う食材を摂取する。
- 軽い運動と規則正しい生活で腎気を養う。
まとめ
房労は、房事の過度によって腎精を損耗し、全身の虚弱を招く重要な病因・病証です。
治療は補腎益精を基本とし、腎陰虚・腎陽虚・陰陽両虚を的確に弁別することが重要です。
日常生活では房事の節度と休養を重視し、腎を養う養生を継続することが回復の鍵となります。
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