腎虚精寒とは

腎虚精寒（じんきょせいかん）とは、腎の虚弱、とくに腎陽不足により精が温煦されず、寒性の病理変化を生じた状態を指す中医学の病証です。
腎は「精を蔵し、成長・生殖を主る」臓であり、腎陽は精を温め推動する根本です。腎陽が虚すると精が寒冷化し、生殖機能や下焦機能の低下を招きます。

主な原因

• 先天不足： 生来の腎精不足。
• 久病・老化： 長期の病や加齢による腎陽消耗。
• 房労過多： 性的消耗による腎精損傷。
• 寒邪の侵襲： 下焦を冷やし腎陽を損なう。
• 慢性疲労： 労倦により腎気・腎陽が虚す。

病理機転

• 腎陽不足により温煦・推動作用が低下する。
• 腎精が寒冷化し、蔵精機能が失調する。
• 下焦が冷え、生殖・排泄機能が衰える。

主な症状

• 腰膝酸軟、下半身の冷え
• 性欲減退、勃起不全、不妊
• 精液清冷、量の減少
• 頻尿、夜間尿、尿清長
• 倦怠感、四肢の冷え

舌・脈の所見

• 舌： 淡胖、苔白滑
• 脈： 沈遅または沈弱

関連する病証

• 腎陽虚： 腎虚精寒の基礎病態。
• 腎精不足： 精の量的不足が主体。
• 腎虚不固： 精関が固摂できない。
• 命門火衰： 腎陽の根本的虚弱。

代表的な方剤

• 金匱腎気丸： 腎陽虚・下焦寒を補う。
• 右帰丸： 腎陽・腎精を温補する。
• 桂附地黄丸： 冷えが顕著な場合。
• 五子衍宗丸： 腎精虚を伴うとき。

治法

• 温補腎陽： 腎の温煦作用を回復させる。
• 益精填髄： 腎精を補い充実させる。
• 固摂下元： 精関・下焦を安定させる。

養生の考え方

• 下半身を冷やさない生活を心がける。
• 過労・房労を避け、十分な休養を取る。
• 温性・補腎の食材（黒豆、胡桃、羊肉など）を適量摂取。
• 規則正しい生活と十分な睡眠。

まとめ

腎虚精寒は、腎陽不足により精が温められず、生殖・下焦機能が低下した寒性虚証です。
治療の要点は温補腎陽・益精固摂にあり、冷えの改善と腎精の養護が重要です。
慢性化しやすいため、体質改善を含めた長期的な調整が望まれます。