命門火衰(めいもんかすい) とは、腎に属する「命門の火(生命の原動力)」が衰え、全身の陽気が不足した状態を指します。
命門の火は人体の生理活動を支える基礎的なエネルギー源であり、その衰えは代謝の低下、寒がり、性機能の減退、倦怠感など、全身の虚寒性の症状として現れます。
特に中高年以降の老化や、長期の病気・過労後にみられることが多く、「腎陽虚」の中でもより重篤な段階にあたります。
原因
- 加齢: 年齢とともに腎精が減り、命門の火が自然に衰える。
- 過労・房事過多: 長期の肉体的・精神的疲労や性行為の過度で腎気・腎陽を消耗する。
- 慢性病・久病: 長引く病気により陽気が損なわれ、命門火が衰える。
- 寒冷の侵襲: 冷えにより腎陽が傷つけられ、命門火の機能が低下する。
- 飲食不節: 冷たいもの・生ものの摂取が多く、脾腎の陽気を損なう。
主な症状
- 全身の冷え、特に腰・下肢の冷えが強い
- 倦怠感・無力感・元気が出ない
- 顔色が白く、声に力がない
- 腰膝のだるさ、冷痛
- 四肢の冷感、特に朝晩に強くなる
- 小便清長(尿が薄く量が多い)または夜間頻尿
- 性機能低下、精寒不育、陽痿など
- 重症では浮腫・下痢・意識朦朧などの陽虚脱証に進行
舌・脈の所見
- 舌: 淡胖、苔は白滑または湿潤
- 脈: 沈遅・微弱
代表的な方剤
- 右帰丸(うきがん): 命門火衰・腎陽虚の代表方。極度の冷え・性機能低下・倦怠に。
- 八味地黄丸(はちみじおうがん): 腎気虚を補い、腎陽を温める。
- 真武湯(しんぶとう): 腎陽虚による水湿停滞・浮腫・下痢に用いる。
- 桂附地黄丸(けいぶじおうがん): 腎陽虚で冷えが強く、腰膝の無力を伴う場合に。
- 金匱腎気丸(きんきじんきがん): 腎陽不足により寒冷・排尿異常を呈する場合に。
養生の考え方
- 身体を冷やさないようにし、特に腰・腹部・足元を温める
- 規則正しい生活と十分な休息をとる
- 生もの・冷たい飲食物を避け、温かい食事を心がける
- 適度な運動(気功・太極拳など)で陽気を補う
- 羊肉・くるみ・にら・えび・桂皮・生姜など、温補腎陽作用のある食材をとる
まとめ
命門火衰とは、生命の根源である「命門の火」が衰退し、全身の陽気・推動力が不足した状態です。
治療・養生の基本は「温補腎陽」「扶陽固脱」であり、命門の火を温め、生命活動を回復させることが重視されます。
0 件のコメント:
コメントを投稿