概念
理気健脾（りきけんぴ）とは、 気の運行を調整（理気）し、脾の運化機能を健やかにする（健脾）ことで、脾気鬱滞・気滞不運による脘腹脹満・食欲不振・便溏などを改善する治法である。 主として肝気鬱結が脾を犯して生じる肝脾不和や、脾気虚による気滞などに用いる。 気の流れを通じて脾の運化を助け、さらに脾を健やかにして気機を円滑にすることを目的とする。
所属
効能
- 理気寛中（気滞を解き、脘腹の張りを除く）。
- 健脾和胃（脾胃の運化機能を回復させ、食欲を整える）。
- 調中止痛（気滞による胃脘痛・脹痛を緩和する）。
- 疏肝解鬱（肝脾不和を調え、情志鬱結による食欲不振を改善する）。
主治
- 肝脾不和：脘腹脹満、食欲不振、腹痛、下痢、情緒不安。
- 脾胃気滞：胃脘痞満、噯気（げっぷ）、腹部膨満感。
- 脾虚挾滞：脾虚により運化が鈍く、気機が停滞する症候。
- 消化不良・慢性胃腸炎・過敏性腸症候群（IBS）などの脾気不調。
病機
脾は運化を主り、肝は疏泄を主る。 肝気が鬱滞すると脾の運化が阻害されて「肝脾不和」となり、脘腹脹満・食欲不振などを生じる。 また、脾虚があると気の昇降が不利となり、気滞を助長する。 したがって本法は、理気をもって気機を通じ、健脾をもって本を補うことで、気滞と脾虚の双方を調整する。
代表方剤
- 香砂六君子湯（こうしゃりっくんしとう）：理気健脾の代表方。脾胃気虚に気滞・湿滞を伴うときに用いる。胃のもたれ・食欲不振・腹満に適す。
- 逍遙散（しょうようさん）：疏肝健脾・養血調経。肝鬱による脾の失調・情志不和に用いる。
- 半夏厚朴湯（はんげこうぼくとう）：理気化痰・寛中安神。気滞痰凝による咽中異物感・脘悶に用いる。
- 香蘇散（こうそさん）：理気解表・健脾和中。感冒時の気滞食欲不振や脾胃不和に適す。
臨床応用
- ストレス・情志不遂による食欲不振・胃部膨満。
- 慢性胃腸障害（胃下垂・胃アトニー・過敏性腸症候群）。
- 食後の膨満感・げっぷ・便通異常など。
- 女性の月経不順・月経前症候群（PMS）に肝脾不和を伴う場合。
使用上の注意
- 実熱・肝火旺盛が明らかな場合には、理気健脾薬の温燥性が症状を悪化させることがある。
- 気滞が強くても陰虚・津少があれば、過度な理気薬の使用は避ける。
- 短期間で脾気が回復したら、理気薬を減じ健脾薬中心へ転換する。
まとめ
理気健脾法は、気機の調暢と脾運化の回復を同時に図る治法であり、 主に肝脾不和・脾胃気滞・脾虚挾滞などに用いられる。 代表方剤は香砂六君子湯・逍遙散などで、 ストレス性胃腸障害や消化不良、食欲不振などに幅広く応用される。
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