腎虚精血不足とは

腎虚精血不足（じんきょせいけつぶそく） とは、腎の精が不足し、それにより血の生成も不十分となった状態を指します。
腎は「精を蔵し、精は血を生む」とされ、腎精は血の源であり、また血は精を滋養します。したがって、腎虚が進むと精の生成が衰え、血も不足して全身の滋養機能が低下します。
本証は、加齢・過労・房事過多・慢性疾患などによって腎精が消耗し、血虚を伴う場合にみられます。

原因

• 加齢・先天の不足： 先天の精気が弱い、または老化によって腎精が自然に減少する。
• 房事過多： 精を過度に損耗し、腎精が枯渇して血の源を失う。
• 久病・慢性消耗： 長期の病により精血が消耗し、腎精が補充されない。
• 脾胃虚弱： 後天の生化の源が弱く、気血の生成が不足し、腎精を養えない。
• 過労・思慮過度： 長期の疲労や精神的負担が腎精と血を同時に損なう。

主な症状

• めまい、耳鳴り、健忘
• 腰膝酸軟、倦怠、力が入らない
• 不眠、多夢、心悸
• 顔色蒼白または萎黄、唇や爪が淡色
• 精力減退、遺精、月経遅延または量少
• 髪の抜けや白髪が増える

舌・脈の所見

• 舌： 舌質は淡または淡紅、苔は薄白
• 脈： 細・弱・沈

病理機転

• 腎は精を蔵し、精は血を生む。腎精が不足すると、血の生化が減少する。
• 精血は互いに資生する関係にあり、血虚もまた腎精を養えず、悪循環となる。
• 結果として、全身の滋養不足・精神疲労・生殖機能低下などを呈する。

代表的な方剤

• 六味地黄丸（ろくみじおうがん）： 腎陰不足・精血の虚に用いる基本方。
• 左帰丸（さきがん）： 腎精不足が著しい場合に補精填髄する。
• 帰脾湯（きひとう）： 脾虚による血生不足と心神不安を伴う場合に。
• 人参養栄湯（にんじんようえいとう）： 気血両虚・久病虚労に。
• 当帰地黄飲（とうきじおういん）： 腎虚血少により月経異常・虚労を呈する場合に。

治法

• 補腎益精： 腎精を補い、腎気を充実させる。
• 養血補虚： 血を増やして滋養を高める。
• 健脾益気： 生化の源である脾胃を助け、精血の生成を促す。
• 安神養心： 精血の不足による不眠・不安を鎮める。

養生の考え方

• 過度の労働や夜更かしを避ける
• 房事を節制し、精の消耗を防ぐ
• 滋陰補腎・養血の食材（黒ごま、クコの実、ナツメ、山薬など）をとる
• 温かく栄養のある食事で脾胃を養う
• 静かな環境で休養をとり、精神を安定させる

まとめ

腎虚精血不足とは、腎精の減少により血の生成も衰え、精血がともに虚する病態です。
治療の基本は「補腎益精」「養血補虚」であり、腎精を充実させ、血を増やして全身の滋養と精神の安定を回復することが要点です。