概要
止暈(しうん)とは、めまい(眩暈)を止める治法であり、主に気血・陰陽・臓腑・経絡の失調によって生じる眩暈症状を改善することを目的とする。 眩暈(めまい)は中医学において、「風」「火」「痰」「虚」などが上擾(じょうじょう)して清陽が昇らず、濁陰が上昇することによって起こると考えられる。
したがって止暈法は、単に症状を抑えるのではなく、その原因(本)と結果(標)をあわせて治すことが基本であり、 具体的には「平肝息風」「化痰去濁」「補気養血」「滋陰潜陽」などを兼ねることが多い。
主な適応症状
- 頭がふらつく・回転性のめまい
- 頭重・頭痛・耳鳴り・目のかすみ
- 顔の赤熱・のぼせ・怒りやすい
- 倦怠・気力の低下・息切れ
- 動悸・不眠・健忘
- 痰が多く、胸がつかえる感じ
これらは、肝陽上亢・痰濁中阻・気血不足・腎精虚など、めまいの主な病因によって分類される。
主な病機
- 肝陽上亢:肝火や肝陽が上衝して頭目を擾乱 → めまい・頭痛・のぼせ。
- 痰濁中阻:脾の運化失調により痰湿が内生 → 清陽の上昇を阻み、頭が重い。
- 気血不足:気血生化不足で脳が養われず → 立ちくらみ・顔面蒼白・倦怠。
- 腎精虚損:腎精不足で髄海が空虚 → 慢性のめまい・耳鳴・腰膝軟弱。
- 風邪上擾:内風や外風が上擾して眩暈を起こす。
したがって止暈法では、原因に応じて平肝・祛痰・補虚などを組み合わせることが重要である。
治法の構成と考え方
- 平肝息風止暈:肝陽上亢・肝風内動による眩暈(例:天麻鉤藤飲)。
- 化痰去濁止暈:痰湿中阻による頭重・めまい(例:半夏白朮天麻湯)。
- 補気養血止暈:気血不足による虚性のめまい(例:帰脾湯、補中益気湯)。
- 滋陰潜陽止暈:肝腎陰虚・陽亢による慢性眩暈(例:六味地黄丸、杞菊地黄丸)。
- 温補腎陽止暈:腎陽虚による冷え性・耳鳴・倦怠(例:真武湯、八味地黄丸)。
代表的な方剤
- 天麻鉤藤飲(てんまこうとういん):平肝息風・清熱止暈。肝陽上亢・高血圧性めまい。
- 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):化痰去濁・健脾止暈。痰湿による頭重・回転性めまい。
- 帰脾湯(きひとう):補気養血・健脾寧心。虚労性のめまい・貧血傾向。
- 杞菊地黄丸(こぎくじおうがん):滋陰補腎・清肝明目。肝腎陰虚による慢性めまい・目のかすみ。
- 真武湯(しんぶとう):温陽利水・健脾止暈。腎陽虚や水湿上逆によるふらつき。
臨床応用のポイント
- 止暈法は原因弁証が最重要であり、単に「めまい止め」ではなく根本治療を目指す。
- 肝陽上亢タイプでは「清肝・平肝」、痰湿タイプでは「化痰・燥湿」、虚証タイプでは「補益」を基本とする。
- 慢性めまい・更年期性眩暈・自律神経失調・メニエール病などにも応用できる。
- 治療初期に症状が一時的に変動することがあるため、体質と経過に応じて調整する。
- めまいに伴う耳鳴・頭重・不眠などの随伴症状にも配慮する。
まとめ
止暈とは、眩暈の原因を弁証し、それに応じて平肝・祛痰・補虚・潜陽などの治法を組み合わせる総合的な治療法である。 代表方剤には天麻鉤藤飲・半夏白朮天麻湯・帰脾湯・杞菊地黄丸などがあり、 肝・脾・腎・気血の調整を通じて清陽を上昇させ、めまいを止めることを目的とする。
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