熱邪(ねつじゃ) とは、六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)のうち「火邪(熱邪)」に属する外邪の一種で、温熱の性質をもつ病因を指します。
外界の高温や季節的な暑さ、あるいは内因的な気機の失調によって生じる熱が体内にこもり、発熱・口渇・汗・煩躁などの症状を引き起こします。
熱邪は上昇・亢奮・消耗・乾燥といった性質をもち、体液(津液)を損傷しやすく、血や気を乱す特徴があります。
特徴(性質)
- 上昇性: 熱は上にのぼりやすく、頭・顔・胸などに症状が出やすい。
- 亢奮性: 陽気を過度に盛んにし、興奮・イライラ・不眠などを引き起こす。
- 乾燥性: 津液を損傷して口渇・便秘・尿少などを生じる。
- 消耗性: 熱が強いと気・血・陰を損ない、虚熱や陰虚火旺に転じる。
- 風や湿など他の邪と結びやすい: 風熱・湿熱などの複合的な病邪を形成する。
原因
- 外感熱邪: 夏季の高温や熱環境、風熱・暑熱などの外邪の侵入。
- 内生熱邪: 情志の失調や飲食不摂生により気機が滞り、鬱して熱となる(気鬱化火・肝鬱化火など)。
- 陰虚内熱: 長期の病や過労により陰液が不足し、相対的に熱が亢進する。
主な症状
- 発熱・口渇・顔面紅潮
- 喉の痛み・咽の腫れ
- 汗多・煩躁・いらいら・不眠
- 尿が濃く赤い、便秘
- 舌質紅・苔黄
- 重症では高熱・譫語・意識障害など
舌・脈の所見
- 舌: 舌質紅、苔は黄または乾燥
- 脈: 数・洪・滑
主な病型と対応
- 風熱犯表: 発熱・悪風・咽痛・咳嗽。
→ 方剤例:銀翹散・桑菊飲 - 陽明熱盛: 高熱・口渇・便秘・煩躁。
→ 方剤例:白虎湯・承気湯類 - 湿熱: 発熱・口苦・胸悶・尿黄・下痢・湿疹。
→ 方剤例:竜胆瀉肝湯・茵蔯蒿湯 - 血熱: 皮疹・出血傾向・煩躁。
→ 方剤例:清営湯・黄連解毒湯
代表的な方剤
- 白虎湯(びゃっことう): 陽明熱盛による高熱・大渇・大汗・大脈に。
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう): 実熱・血熱・煩躁・口苦などに。
- 銀翹散(ぎんぎょうさん): 風熱の初期、発熱・咽痛に。
- 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう): 肝胆の湿熱、口苦・目赤・小便黄に。
養生の考え方
- 辛熱・脂っこい食事を避け、清涼・あっさりした食事をとる
- ストレス・怒りを避け、気の巡りをよくする
- 十分な水分と休息をとり、津液を保護する
- 体を冷やしすぎず、自然な発汗で熱を散らす
- 熱性の症状には清熱・解毒・養陰の食材(緑豆・ゴーヤ・蓮の葉・梨など)をとる
まとめ
熱邪とは、体内に侵入または発生した熱性の病邪であり、上昇・乾燥・消耗の性質をもつ病因です。
治法の基本は「清熱瀉火」「涼血解毒」であり、熱を冷まし、津液と陰を保護することが重要です。
0 件のコメント:
コメントを投稿