陽虚とは

陽虚（ようきょ） とは、人体の陽気（温煦・推動の働きをもつエネルギー）が不足した状態を指します。
陽気が衰えると、身体を温める力・新陳代謝を促す力が低下し、寒がり・手足の冷え・倦怠感などの寒証（冷えの症状）が現れます。
さらに進行すると、臓腑の機能低下や水湿の停滞を招き、浮腫や下痢などを伴うこともあります。

原因

• 先天不足： 生まれつき腎陽が弱く、冷えやすい体質。
• 寒邪の侵入： 外からの寒さによって陽気を損なう。
• 過労・慢性病： 長期の疲労や病気で陽気が消耗する。
• 老化： 加齢により腎陽が衰える。
• 過度な寒冷刺激・冷飲食： 脾胃を冷やして陽気を損なう。

主な症状

• 手足・腰・腹の冷え
• 顔色が白く艶がない
• 寒がりで温めを好む
• 倦怠感・無気力・疲れやすい
• 自汗・息切れ
• むくみ・下痢・小便清長（尿が薄く量が多い）
• 性欲減退・陽痿

舌・脈の所見

• 舌： 淡白・胖大、苔は白滑
• 脈： 沈遅・弱または微細

主な分類

• 脾陽虚： 食欲不振・腹の冷え・下痢・四肢倦怠。
  → 方剤例：理中湯・附子理中湯・真武湯
• 腎陽虚： 腰膝冷痛・下半身の冷え・夜間多尿・陽萎。
  → 方剤例：八味地黄丸・右帰丸
• 心陽虚： 動悸・息切れ・顔面蒼白・冷汗。
  → 方剤例：参附湯・桂枝加竜骨牡蠣湯
• 陽虚水泛： 浮腫・尿少・寒冷感・下痢。
  → 方剤例：真武湯・腎気丸

代表的な方剤

• 附子理中湯（ぶしりちゅうとう）： 脾陽虚による冷え・倦怠・下痢に。
• 真武湯（しんぶとう）： 腎陽虚や陽虚水泛によるむくみ・めまいに。
• 右帰丸（うきがん）： 腎陽虚による冷え・性機能低下・腰膝冷痛に。
• 八味地黄丸（はちみじおうがん）： 老化・下半身の冷え・夜間多尿に。

養生の考え方

• 冷えを避け、身体を温める生活（特に腰・腹・足元を保温）
• 冷飲・生もの・脂っこい食事を控える
• 温性・辛甘の食材（生姜・葱・羊肉・桂皮など）を取り入れる
• 過労・夜更かしを避け、十分な休息をとる
• 軽い運動で陽気の巡りを促す

まとめ

陽虚とは、体を温めるエネルギーである陽気が不足した「寒証」の一種です。
治法の基本は「温補陽気」「扶陽益気」であり、温煦・健運の力を回復させ、冷えを根本から改善することを目的とします。