腸癰湯（ちょうようとう）

📘 基本情報

項目	内容
方剤名	腸癰湯（ちょうようとう）
出典	『金匱要略（きんきようりゃく）・腹満寒疝宿食病篇』
分類	清熱解毒・排膿剤（せいねつげどく・はいのうざい）
構成生薬	大黄（だいおう）・牡丹皮（ぼたんぴ）・桃仁（とうにん）・冬瓜仁（とうがにん）
方名の由来	「腸の癰（よう）＝腸内の化膿性炎症」を治すことから名づけられた。

🧭 方意（効能と主治）

区分	内容
効能	清熱解毒（せいねつげどく）・活血化瘀（かっけつけお）・消腫排膿（しょうしゅはいのう）
主治	虫垂炎・腹膜炎・腸炎などの炎症性疾患。 発熱・右下腹部痛・圧痛・便秘・舌紅・苔黄膩・脈滑数などを呈するもの。
病機	湿熱が腸中に鬱滞し、気血の流れを妨げて熱毒が内にこもり、膿を生じる。 このため、発赤・腫脹・疼痛・発熱・便秘などが現れる。

💊 構成生薬と作用

生薬	主な作用
大黄（だいおう）	瀉下・清熱解毒。腸内の熱を除き、便通を促して膿を排出。
牡丹皮（ぼたんぴ）	清熱涼血・活血散瘀。炎症や疼痛を鎮める。
桃仁（とうにん）	活血化瘀・消腫排膿。血行を促し、うっ滞を除去。
冬瓜仁（とうがにん）	清熱排膿・解毒消腫。膿を軟化し、体外へ排出させる。

🌡 臨床的特徴

観点	内容
症状の特徴	右下腹部痛（回盲部痛）・圧痛・発熱・便秘・口渇・舌紅・苔黄膩・脈数。 炎症が進行し、膿瘍形成を疑うような腹部所見を伴う場合にも用いる。
体質傾向	比較的体力中等度以上の実証タイプ。 炎症やうっ血が起こりやすく、便秘傾向のある人。
舌象・脈象	舌：紅、苔黄膩。 脈：滑数または実数。

🩺 現代医学的応用

• 急性虫垂炎（軽症〜中等度）。
• 大腸炎・憩室炎・腹膜炎の初期。
• 婦人科領域の骨盤内炎症（子宮付属器炎など）。
• 化膿性疾患で、腫脹・疼痛・発熱を伴う場合。

⚖️ 類方・比較

方剤	特徴・鑑別点
大黄牡丹皮湯	腸癰湯に似るが、冬瓜仁を含まない。 便秘・腹痛が強く、まだ化膿していない段階に用いる。
排膿散及湯	皮下・乳腺などの膿瘍に適す。外科的炎症の初期に使用。
腸癰湯	腸内（特に盲腸部）の膿腫を排膿・消炎する方剤。

⚠️ 使用上の注意

• 炎症が高度で腹膜刺激症状（強い圧痛・反跳痛など）がある場合は外科的治療を優先。
• 腹痛や下痢が強く出た場合は中止する。
• 虚証・冷え性の人には不向き。

📖 メモ（臨床要点）

• 虫垂炎（盲腸炎）の漢方治療で最も有名な方剤。
• 大黄・桃仁・牡丹皮で血行を促進し、冬瓜仁で膿を排出。
• 初期の炎症〜化膿期にかけて広く応用可能。
• 体内の「うっ血＋熱＋膿」を動かして治す“内科的排膿方”。