概要
去風(きょふう)とは、身体に侵入または内生した「風邪(ふうじゃ)」を取り除く治法を指す。 中医学では「風」は六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)のうちでもっとも変化が速く、 上部・外部を犯しやすい病邪とされる。 したがって去風法は、外風(外から侵入した風邪)と内風(体内で生じた風)のいずれにも対応する。
外風には主に感冒・皮膚掻痒・関節痛などが多く、 内風には肝陽上亢・血虚・熱極生風などが関与し、 めまい・痙攣・手足の震えなどの症状を呈する。 去風法はこれらの状況に応じて、祛風・止痒・通絡・熄風などの方向から施される。
主な適応症状
- 風邪感冒による発熱・悪風・頭痛・鼻閉・咽喉痛
- 風湿による関節痛・筋肉痛・しびれ・運動障害
- 皮膚瘙痒・蕁麻疹・湿疹
- 肝風内動によるめまい・ふるえ・痙攣
- 中風(脳血管障害後遺症)による半身不遂・言語障害
これらは、風の移動性・上昇性・変動性という性質により、 症状が「動きやすく・変わりやすく・上半身に出やすい」ことが特徴である。
主な病機
- 外風侵襲:風邪が体表に侵入し、衛気の働きを乱す → 発熱・悪風・頭痛・鼻閉。
- 風湿痺阻:風と湿が経絡を阻滞 → 四肢関節痛・屈伸不利。
- 風熱上擾:風熱が肌表を犯す → 発疹・瘙痒・咽痛。
- 肝風内動:肝陽化風・熱極生風・血虚生風 → めまい・痙攣・手足振戦。
これらに対し、去風法は風邪を散らし、経絡を通じ、症状を鎮めることを目的とする。
主な配合法
- 去風+解表:外感風寒・風熱による発熱・悪寒(例:荊防敗毒散、銀翹散)。
- 去風+除湿:風湿痺阻による関節痛・麻痺(例:独活寄生湯、羌活勝湿湯)。
- 去風+養血:血虚生風による掻痒・皮膚乾燥(例:当帰飲子)。
- 去風+熄風:肝風内動による眩暈・痙攣(例:天麻鉤藤飲、鎮肝熄風湯)。
- 去風+活血:中風後遺症などで経絡が塞がった場合(例:補陽還五湯)。
代表的な方剤
- 荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん):外感風寒湿邪。祛風解表・散寒除湿。
- 羌活勝湿湯(きょうかつしょうしつとう):風湿痺阻による関節痛。祛風除湿・通絡止痛。
- 独活寄生湯(どっかつきせいとう):風湿痺痛・慢性関節炎。祛風除湿・補気養血・通絡止痛。
- 当帰飲子(とうきいんし):血虚生風による皮膚瘙痒。養血潤燥・祛風止痒。
- 天麻鉤藤飲(てんまこうとういん):肝陽上亢・肝風内動。平肝熄風・清熱活血。
- 鎮肝熄風湯(ちんかんそくふうとう):肝腎陰虚・肝陽化風。滋陰平肝・鎮風止痙。
臨床でのポイント
- 「風」は変化が速く移動しやすいため、早期の去風治療が重要。
- 外風は解表薬・辛温薬・辛涼薬で散じ、内風は肝を鎮め・血を養うことで抑える。
- 皮膚病・関節痛・神経症状では、去風薬に加えて血や湿の調整が必要。
- 慢性疾患や高齢者では、補益薬と併用して「祛邪不傷正」を図る。
- 気候の変動に敏感な体質では、玉屏風散などで衛気を補って風邪侵入を防ぐことも有効。
まとめ
去風とは、外風を散じ、内風を鎮め、風邪による変動性の症状を取り除く治法である。 その応用範囲は広く、感冒・皮膚病・関節痛から神経疾患まで多岐にわたる。 外風には祛風解表、内風には平肝熄風や養血潤燥などを組み合わせて用い、 邪を除きながら正気を保つことが治療の要点となる。
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