五淋散（ごりんさん）

📘 基本情報

項目	内容
方剤名	五淋散（ごりんさん）
出典	『医宗金鑑』
分類	清熱利湿・通淋止痛剤
保険適用エキス製剤	五淋散（ツムラ71、クラシエ71など）
構成生薬	木通・滑石・車前子・当帰・地黄・山梔子・甘草

🧭 方意（効能と主治）

区分	内容
効能	清熱利湿、通淋止痛、養血和陰。
主治	膀胱・尿道の湿熱や気滞による排尿痛・頻尿・残尿感・血尿など。 尿が少なく濃い、排尿時の灼熱感、尿が切れにくい、尿道痛、尿混濁などの症状に用いる。 慢性膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎、前立腺炎、血尿、排尿障害などに適応。
病機	湿熱が下焦（膀胱）に滞り、気血の流れを阻んで「淋証（尿トラブル）」を起こす。 木通・滑石・車前子で利尿・通淋し、山梔子で熱を冷まし、 当帰・地黄で陰血を補って尿路粘膜の損傷を修復、甘草で緩和調和する。

🌡 臨床的特徴

観点	内容
典型的症状	・排尿痛、尿の切れが悪い、残尿感 ・尿の濁り、血尿、灼熱感 ・尿量減少または頻尿 ・尿が黄色く濃い ・慢性の膀胱炎や尿道炎 ・再発を繰り返す排尿痛・違和感
体質傾向	下焦の湿熱、または慢性的な炎症後の陰虚体質。
舌診	紅または暗紅、黄苔または少苔。
脈診	数または細数。

💊 構成生薬と作用

生薬	主要作用
木通（もくつう）	利尿通淋、清心除煩。尿路の熱と滞りを除く。
滑石（かっせき）	清熱利湿、滑利小便。尿路の炎症・熱感を鎮める。
車前子（しゃぜんし）	清熱利尿、除湿通淋。尿の排出を促進。
山梔子（さんしし）	清熱瀉火、除煩。湿熱性の炎症や灼熱感を鎮める。
当帰（とうき）	補血活血。炎症による粘膜損傷の修復を助ける。
地黄（じおう）	養陰清熱、涼血止血。尿路の出血や熱傷を改善。
甘草（かんぞう）	調和諸薬、抗炎症・鎮痛作用。

🩺 現代医学的な理解

• 抗炎症・抗菌作用（尿路粘膜の炎症抑制）
• 利尿作用（尿量増加による排菌促進）
• 血管拡張・平滑筋弛緩作用（排尿時痛や緊張緩和）
• 再発予防（膀胱粘膜保護・免疫調整）

💬 臨床応用例

• 急性・慢性膀胱炎、尿道炎。
• 血尿、膿尿、尿混濁。
• 排尿痛、残尿感、尿切迫感。
• 慢性前立腺炎。
• 女性の慢性尿道刺激症、頻尿症。

⚖️ 類方鑑別

方剤名	鑑別点
猪苓湯	尿路炎症に発熱や口渇がある場合に用いる。熱証寄り。
竜胆瀉肝湯	肝胆経の湿熱が強く、下腹部の炎症・帯下・陰部掻痒を伴う場合。
八味地黄丸	老化・虚弱による排尿困難や夜間頻尿（腎虚）に適する。
清心蓮子飲	疲労・ストレス性の頻尿や尿混濁。虚証寄り。

⚠️ 使用上の注意

• 体力が極度に低下した虚証では注意。
• 冷え性で尿が多い（寒証）タイプには不適。
• 長期服用で口渇・倦怠が出た場合は中止または方剤変更。

📖 メモ（臨床的要点）

• 五種類の「淋証（尿路炎症）」を総合的に治す万能方。
• 湿熱の強い膀胱炎・尿道炎の第一選択。
• 炎症後の粘膜損傷や血尿にも対応。
• 尿が濁って熱感があるときの定番処方。
• 「尿路の熱と滞り」を同時に除く方剤。