心血不足(しんけつぶそく)とは、心を養う血(心血)が不足し、心神の安定や血の循環が十分でない状態を指します。
心血は、心を養い神志を安定させるとともに、脈を動かして全身に血を巡らせる重要な役割を担います。
心血不足では、動悸・不眠・めまい・健忘・顔色蒼白などが現れ、精神や身体の機能低下を招きます。
主に脾血虚・長期病後・過労・思慮過多・加齢などによって生じる虚証です。
原因
- 脾血虚弱: 脾の運化による血の生成が不足し、心血を養えない。
- 長期の病後・慢性疾患: 気血が消耗し、心血も不足する。
- 過労・思慮過多: 精神的・肉体的疲労が血を消耗する。
- 出血過多: 急性・慢性の出血により心血が減少する。
- 加齢: 血が減少し、心血不足を招きやすくなる。
主な症状
- 動悸・心悸亢進・息切れ
- 不眠・夢多・眠り浅い
- 健忘・注意力散漫・思考力低下
- 顔色が蒼白・唇淡白・唇の乾燥
- 手足のしびれ・こわばり
- 舌は淡・少苔
- 脈は細・虚・弱
舌・脈の所見
- 舌: 淡、少苔、場合によって裂紋あり
- 脈: 細・虚・弱
病理機転
- 心血は心を養い神志を安定させるとともに、脈を動かし全身に血を巡らせる。
- 心血不足では血の巡りが不十分となり、心神の安定が失われ、動悸・不眠・健忘などの症状が現れる。
- 脾血虚が背景にある場合、血の生成力も不足し、症状が慢性化しやすい。
- 長期化すると心陰虚・心陽虚へ進展し、熱象や寒象を伴うことがある。
代表的な方剤
- 酸棗仁湯(さんそうにんとう): 心血不足による不眠・心悸・夢多に。
- 養心湯(ようしんとう): 心血を補い心神を安定させる。
- 帰脾湯(きひとう): 心脾両虚による動悸・倦怠・不眠・健忘に。
- 天王補心丹(てんのうほしんたん): 心陰虚・心血不足に伴う不眠・心悸・精神不安に適応。
- 当帰補血湯(とうきほけつとう): 血虚による動悸・倦怠・顔色蒼白に。
治法
- 養心益血: 心血を補い、心神を安定させる。
- 補脾生血: 脾胃の運化を助け、血の生成を増やす。
- 安神定志: 不眠・精神不安を改善する。
- 養陰安神: 心血不足が陰虚に進んだ場合に用いる。
養生の考え方
- 十分な睡眠を確保し、過労や夜更かしを避ける。
- 温かく消化の良い食事で脾胃を養い、血の生成を促す(黒豆・枸杞子・山薬・棗など)。
- 精神的ストレスを軽減し、心を落ち着ける時間を持つ。
- 軽い運動で血行を促進し、心血の巡りを助ける。
- 過度の出血・多汗・房事過多を避け、血の消耗を防ぐ。
まとめ
心血不足とは、心を養う血が不足し、心神の安定や血の循環が不十分な状態をいいます。
主症状は動悸・不眠・健忘・倦怠・顔色蒼白で、治療の基本は養心益血・補脾生血・安神定志です。
代表方剤には酸棗仁湯・帰脾湯・天王補心丹・養心湯などがあり、心血を補い心神を安定させることが要点です。
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