肝腎両虚(かんじんりょうきょ)とは、肝と腎の両方の機能が低下した状態を指します。
肝は血を蔵し、腎は精を蔵するため、両者は互いに「精血同源(せいけつどうげん)」の関係にあります。
そのため、腎精の不足は肝血の生成を妨げ、肝血の虚は腎精の養いを失うこととなり、結果として肝腎両虚の病態が形成されます。
主に慢性疾患や加齢、過労、房事過多などによって生じ、めまい・耳鳴り・腰膝のだるさ・視力低下・不眠などを特徴とします。
原因
- 加齢・老化: 年を重ねることで腎精が自然に減少し、肝血の生成も衰える。
- 房事過多: 腎精の損耗が進み、肝血の滋養も不足する。
- 慢性疾患・消耗: 長期の病によって精血が消耗し、肝腎がともに虚する。
- 過労・睡眠不足: 気血の生化が阻害され、精血の生成が不足する。
- 情志の失調: 怒りや思慮過多により肝気の疏泄が乱れ、肝血の消耗が進む。
主な症状
- めまい・耳鳴り
- 腰膝酸軟(腰や膝がだるい・力が入らない)
- 不眠・多夢・健忘
- 目のかすみ・視力減退
- 顔色蒼白または萎黄
- 月経量少・閉経傾向
- 男性では精力減退・遺精
- 舌は紅少苔または淡紅で裂紋あり、脈は細弱
舌・脈の所見
- 舌: 淡紅または紅、苔少または無苔、裂紋を伴うことがある。
- 脈: 細弱、沈細。
病理機転
- 腎精の不足により、肝血の生成が減少する。
- 肝血の虚により、筋・目・経脈が栄養を失い、めまいや視力減退を生じる。
- 腎虚により骨・髄・耳・性機能が衰え、腰膝酸軟や耳鳴、性機能低下を招く。
- 肝腎の陰虚が進むと、虚熱が内生し、五心煩熱・潮熱・盗汗などがみられる。
代表的な方剤
- 六味地黄丸(ろくみじおうがん): 肝腎陰虚の基本方。めまい・耳鳴・腰膝のだるさに。
- 杞菊地黄丸(こぎくじおうがん): 肝腎両虚による視力減退や目の疲れに。
- 知柏地黄丸(ちばくじおうがん): 肝腎陰虚に虚熱が加わる場合。
- 左帰丸(さきがん): 腎精不足が著明な場合。
- 一貫煎(いっかんせん): 肝腎陰虚で気滞を伴うときに。
治法
- 滋補肝腎: 肝血と腎精を補い、両者を滋養する。
- 養血益精: 精血同源の原則に基づき、陰液を充実させる。
- 清虚熱: 陰虚による虚熱がある場合は同時に清熱する。
養生の考え方
- 十分な睡眠と休養を取り、過労や夜更かしを避ける。
- 房事を節制し、腎精の損耗を防ぐ。
- 黒ゴマ・クコの実・山薬・黒豆など、肝腎を補う食材を摂取する。
- ストレスや怒りを避け、情志の安定を保つ。
- 軽い運動で血流を促し、筋骨を養う。
まとめ
肝腎両虚とは、肝血と腎精がともに不足した状態であり、めまい・耳鳴・腰膝酸軟・視力減退・不眠などを呈します。
治療の基本は「滋補肝腎」「養血益精」であり、生活習慣の改善と陰液の充実が要点となります。
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