腰膝酸軟(ようしつさんなん)とは、腰や膝がだるく、力が入らず、酸痛(重だるい痛み)や軟弱感を覚える状態を指す中医学の病証用語です。
この症状は、主に腎の虚損、または肝腎の不足によって起こります。
「腰は腎の府」「膝は腎の合」といわれるように、腎精が不足すると腰膝を滋養できず、酸軟・無力となるのです。
主な原因
- 腎精不足: 加齢・過労・房事過多などにより腎精が消耗し、骨髄が充たされず腰膝が無力となる。
- 肝腎両虚: 肝血・腎精の不足により筋骨を滋養できず、腰膝酸軟を呈する。
- 脾胃虚弱: 後天の気血生化の源が不足し、筋骨に栄養が届かない。
- 湿邪・寒邪の侵襲: 風寒湿邪が経絡を阻滞し、気血の流れが滞って酸痛や重だるさを生じる。
病理機転
- 腎精が虚すると、骨髄が充たされず、筋骨が弱る。
- 肝血不足では、筋が滋養されずに弛緩する。
- 湿邪が絡むと、気血の運行が阻まれ、重だるく酸痛する。
主な症状
- 腰や膝のだるさ、力が入らない感じ
- 動作時に疲れやすい、歩行が困難になることも
- 腰や下肢に鈍痛・酸痛・重だるさ
- 慢性では冷感、急性では熱感を伴うこともある
- 性機能減退、耳鳴り、健忘、倦怠感など(腎虚に伴う)
舌・脈の所見
- 舌: 淡紅~淡、苔薄白
- 脈: 沈細または虚弱
証型別の鑑別
- 腎陽虚: 腰膝冷痛、四肢冷え、小便清長、顔色白。
- 腎陰虚: 腰膝酸軟、五心煩熱、口燥咽乾、舌紅少苔。
- 肝腎陰虚: 腰膝酸軟に加え、眩暈、耳鳴り、筋の痙攣、手足の震えなど。
- 風寒湿痺: 腰膝の重だるさや痛みが天候・湿気で悪化。
代表的な方剤
- 六味丸(ろくみがん): 腎陰虚による腰膝酸軟に。
- 八味地黄丸(はちみじおうがん): 腎陽虚による腰膝冷痛・無力に。
- 杜仲丸(とちゅうがん): 肝腎両虚による筋骨無力に。
- 独活寄生湯(どっかつきせいとう): 風寒湿痺による腰膝酸痛・関節痛に。
- 牛膝丸(ごしつがん): 腎精不足による腰膝無力・筋骨萎軟に。
治法
養生の考え方
- 冷え・湿気を避け、腰を冷やさない。
- 過労・長時間の立ち仕事・性過多を控える。
- 黒豆、胡桃、山薬、枸杞子、杜仲など腎を補う食材を摂る。
- 腰や下肢の軽い運動・ストレッチで気血の流れを促す。
まとめ
腰膝酸軟は、主に腎虚(特に腎精不足・肝腎陰虚)によって生じる、腰や膝のだるさ・無力・酸痛の症候です。
治療は「補腎強腰・益精健骨」を基本とし、陰虚には六味丸、陽虚には八味地黄丸、湿痺を伴えば独活寄生湯を用います。
生活では腰を冷やさず、過労を避け、腎を養う食事と休養が大切です。
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