概念
温陽固脱（おんようこだつ）とは、衰弱した陽気を温補し、脱証（生命機能の急激な虚脱）を防ぐ・止める治法をいう。 「固脱」とは、元陽が外に漏れ出ようとするのを固めて止めることを意味し、温陽法を基礎として生命力の回復を図る。
突然の意識低下・四肢厥冷・脈微欲絶・冷汗など、元陽虚脱・亡陽亡陰に瀕した状態に応用される。
所属
温陽固脱法は、補益法の中の温補法に属する。 特に回陽救逆や益気扶陽と併用され、亡陽・虚脱・厥逆・中寒などの危急症に対して用いられる。
効能
- 衰退した陽気を温めて回復させる。
- 元陽を固めて脱証を防ぐ。
- 陰寒の邪を除き、臓腑の機能を回復させる。
- 四肢の温度を回復し、脈を復させる。
- 意識・呼吸・脈動などの生命活動を安定させる。
主治
- 亡陽脱証：四肢厥冷・冷汗・脈微欲絶・意識微弱・顔面蒼白。
- 虚寒内盛：寒戦・無力・下痢清穀・小便清長・脈沈微。
- 厥逆症：四肢冷逆・脈細弱・意識朦朧。
- 中寒昏厥：外寒直中により陽気が暴脱する状態。
病機
陽気は生命活動の原動力であり、これが極度に損耗・虚脱すると、臓腑の機能が停止に向かい、意識や循環が失われる。 過労・長期病患・大出血・冷邪直中などにより、元陽が虚し、陰寒が内に盛んとなる。 温陽固脱法は、温熱薬で命門の火を助け、元陽を固めて回復させることで、生命の維持を図る治法である。
代表方剤
- 四逆湯：陽虚による手足厥冷・脈沈微・下痢。
- 参附湯：元陽虚脱・脈微欲絶・四肢厥冷・意識微弱。
- 独参湯：元気虚脱・大虚弱・意識低下。
- 回陽救逆湯：厥逆・寒閉・中寒による昏厥・四肢冷逆。
- 附子湯：虚寒による下痢・冷え・倦怠・四肢冷。
臨床応用
- ショック状態・急性循環不全。
- 重度の低体温症・中寒症。
- 病後の極度の虚弱・昏睡・意識障害。
- 慢性疾患の急性増悪で陽気が暴脱する場合。
- 重度の下痢・嘔吐・脱水後の陽気虚脱。
使用上の注意
- 外邪が残る実証状態では使用を避ける。
- 熱証・陰虚火旺では禁用。
- 過度な温補は陰液を損ねるため、回復後は陰を養う必要がある。
- 危急時は西洋医学的救急処置と併用し、補助的に使用する。
- 附子・乾姜などの辛熱薬は用量に注意し、過熱反応を防ぐ。
まとめ
温陽固脱法は、極度に衰退した陽気を温めて回復させ、生命活動の維持を図る治法である。 代表方剤は四逆湯・参附湯・回陽救逆湯などで、命門の火を助け、元陽を固め、陰寒を退けることを主眼とする。 虚脱・厥逆・亡陽など、危急の虚証に対して用いられ、救急的治法として重要である。
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