胆虚不寧とは

胆虚不寧（たんきょふねい）とは、 胆の気が不足して精神の安定を保つことができない状態を指し、 決断力の低下・驚きやすさ・不安・不眠・動悸などを特徴とします。
東洋医学では、胆は「中正の官」とされ、決断と勇気を司り、 心神を安定させる役割を持ちます。胆気が虚すると、心神を固められず、 精神不安や情志失調が生じるのです。

主な原因

• 先天素体の虚弱： 気血不足体質で胆気が充実しない。
• 長期の精神緊張・ストレス： 情志失調により胆気が損傷。
• 大病後・慢性疾患・過労： 気血消耗 → 胆気不足。
• 睡眠不足・夜更かし： 心胆の調和を損ねる。
• 驚恐・恐怖体験： 心神の安定が乱れ胆虚が進む。

病理機転

• 胆気不足 → 心神を固められず → 不安・怯え・決断力低下が生じる。
• 心胆不交 → 精神安定を失い、不眠や多夢を呈する。
• 気血不足が背景 → 気弱により惊恐しやすく、悪循環。

主な症状

• 驚きやすく、恐がり、決断できない
• 不安感・胸悶・動悸・気持ちが落ち着かない
• 不眠・多夢・眠りが浅い
• ため息が多い、気がふさぐ
• 顔色が青白く、声に力がない
• 疲れやすく、食欲低下、倦怠感

舌・脈の所見

• 舌： 淡、苔薄白
• 脈： 細・弱、あるいは弦細

代表的な方剤

• 温胆湯（うんたんとう）： 痰気を調え、心胆を安定させる基本方。
• 酸棗仁湯（さんそうにんとう）： 不眠や心悸を伴う場合。
• 帰脾湯（きひとう）： 気血両虚に伴う健忘、不安、不眠。
• 加味帰脾湯： 気鬱や情緒不安を兼ねる場合。
• 百合地黄湯： 心陰不足による精神不安に。

治法

• 益気養心： 気血を補い心神を安定させる。
• 安神定志： 驚恐・不安を鎮め心胆を調える。
• 調和心胆： 心胆の交わりを回復し精神活動を正常化。

養生のポイント

• 規則的な睡眠・休息を確保し、夜更かしを避ける。
• 過度なストレスや緊張状態を減らす。
• 深呼吸、瞑想、気功などで心神安定を促す。
• 酸棗仁、なつめ、竜眼肉、百合、蓮子心などを食養に。
• 温かい食事、軽い運動で気血の巡りを促進。

まとめ

胆虚不寧は、主に胆気不足により心神が安定を失うことで起こる 精神不安・驚きやすさ・不眠などの症候です。
治療は益気養心・調和心胆・安神定志が基本であり、生活面では 睡眠管理と情志の安定が重要となります。