久病入腎(きゅうびょうにゅうじん)とは、長期間にわたる慢性疾患によって病邪が深く入り、最終的に腎を損傷した状態を指す中医学の病機概念です。
中医学では「久病必虚」「久病入絡」「久病入腎」と言われ、病が長引くほど正気(特に腎精・腎気・腎陰陽)が消耗し、根本である腎に影響が及ぶと考えられます。
主な原因
- 慢性疾患の長期化: 呼吸器・消化器・循環器などの病が長引き、正気が徐々に消耗する。
- 久病による精血消耗: 病中の消耗や回復不十分により腎精が損なわれる。
- 治療・養生不足: 適切な休養や補養が行われず、虚損が進行する。
- 加齢: 加齢により腎の耐久力が低下し、久病の影響を受けやすくなる。
病理機転
- 病邪が長期に停滞し、正気(腎精・腎気・腎陰陽)が次第に消耗する。
- 腎の蔵精・主骨・生髄・納気などの機能が低下する。
- 腎虚を基盤として、虚寒・虚熱・水湿・瘀血などが併発しやすくなる。
主な症状
- 腰膝酸軟、足腰の無力感
- 倦怠感が強く、疲労が回復しにくい
- 耳鳴り、難聴、健忘
- 性機能低下、不妊
- 夜間頻尿、尿量異常
- 冷え(腎陽虚)またはほてり・盗汗(腎陰虚)
舌・脈の所見
- 舌: 淡~紅、苔薄または少苔(虚の性質により変化)
- 脈: 沈細・虚弱
証の分化
代表的な方剤
- 六味地黄丸: 久病による腎陰虚に。
- 八味地黄丸: 久病入腎+腎陽虚に。
- 左帰丸: 精血消耗が著しい場合。
- 右帰丸: 腎陽衰弱が顕著な場合。
治法
- 補腎扶正: 腎を補い、正気を回復させる。
- 益精填髄: 精血を補い、根本を充実させる。
- 陰陽調補: 偏りに応じて腎陰・腎陽を調整する。
養生の考え方
- 長期的視点での休養と体力回復を重視する。
- 過労・夜更かし・房労を避ける。
- 腎を補う食養生(黒豆、胡桃、山薬、枸杞子など)を継続する。
- 急激な運動や無理な発汗を避ける。
まとめ
久病入腎は、慢性疾患の長期化によって病変が深まり、生命の根本である腎が損なわれた状態を示します。
治療の中心は補腎扶正・益精填髄であり、急がず段階的に体質を立て直すことが重要です。
日常生活では消耗を避け、腎を養う継続的な養生が回復の鍵となります。
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