腎気不固とは

腎気不固(じんきふこ)とは、腎気が不足して固摂(こせつ)作用が低下し、本来体内に保持すべき精・尿・便・血などを保てなくなった状態を指す中医学の病機概念です。
腎は「固摂」を主り、精・尿・二便・衝任を統御しますが、腎気が虚すると封蔵作用が弱まり、漏れやすい症状が現れます。


主な原因

  • 加齢: 腎気は年齢とともに自然に衰え、固摂力が低下する。
  • 久病・慢性疾患: 長期の病によって腎気が消耗する。
  • 過労房事過多 腎精・腎気の消耗により封蔵機能が弱まる。
  • 先天不足: 体質的に腎気が弱く、不固を生じやすい。

病理機転

  • 腎気が虚すると、封蔵・固摂作用が低下する。
  • 精・尿・便・衝任を保持できず、下漏・滑脱症状が出現する。
  • 腎虚を基盤として、気虚・陽虚・精虚を伴いやすい。

主な症状

  • 頻尿・尿失禁・夜間頻尿
  • 遺精・滑精、早漏
  • 女性では帯下過多、月経不順
  • 大便失禁、久瀉
  • 腰膝酸軟、下肢の無力感
  • 倦怠感、息切れ

舌・脈の所見

  • 舌: 淡、苔薄白
  • 脈: 沈弱・細弱

関連する証の鑑別

  • 腎陽虚 腎気不固に冷え・浮腫・小便清長を伴う。
  • 腎陰虚 固摂不全に加え、五心煩熱・盗汗・口燥を伴う。
  • 脾腎両虚 久瀉・脱肛・尿失禁を同時に呈する。
  • 中気下陥 臓器下垂・脱肛が主体で、腎虚は二次的。

代表的な方剤

  • 縮泉丸(しゅくせんがん): 腎気不固による頻尿・夜尿に。
  • 金鎖固精丸(きんさこせいがん): 遺精・滑精の代表方。
  • 桑螵蛸散(そうひょうしょうさん): 小児・高齢者の尿失禁、健忘を伴う場合。
  • 右帰丸: 腎陽虚を伴う重症例に。

治法

  • 補腎益気 腎気を補い、固摂力を回復させる。
  • 固精縮尿: 精・尿の漏出を防ぐ。
  • 温補腎陽 冷えを伴う場合に併用する。

養生の考え方

  • 過労・夜更かし・房事過多を避ける。
  • 下腹部・腰部を冷やさない。
  • 黒豆、胡桃、山薬、蓮子、芡実など腎を補い固摂を助ける食材を摂る。
  • 無理な発汗・過度な利尿を避ける。

まとめ

腎気不固は、腎気虚によって固摂機能が低下し、精・尿・便・衝任を保てなくなった病証です。
治療の要点は補腎益気・固精縮尿にあり、腎の封蔵機能を回復させることが重要です。
日常生活では消耗を避け、腎を養う継続的な養生が症状改善の鍵となります。

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