心肺両虚(しんぱいりょうきょ) とは、心気と肺気がともに虚している病態を指します。
心は血脈を主り神志を司り、肺は気を主り呼吸をつかさどります。肺気の虚により宗気が不足すると、心の推動作用を助けられず、心気も虚して血脈運行が弱まります。逆に心気虚によって血の循環が滞ると、肺の宣発・粛降も失調し、呼吸機能が低下します。
このように心と肺の虚が互いに影響しあって、気血の生化・運行・呼吸機能の低下を呈するのが特徴です。
原因
- 久病・慢性消耗: 長期の疾患や加齢により心気・肺気がともに損なわれる。
- 過度の労倦・思慮: 心気・肺気を消耗し、疲労感や息切れを招く。
- 悲憂・心労過多: 肺の気を損じ、心気にも影響して血脈の推動が弱まる。
- 慢性呼吸器疾患: 肺虚が長引き、心気にも及ぶ。
- 気血生化不足: 脾虚や腎虚などの基礎的虚弱が背景にあることも多い。
主な症状
- 息切れ・呼吸困難・少気懶言
- 動悸・胸悶・易疲労
- 顔色蒼白・声に力がない
- 自汗・冷え・倦怠感
- 不眠・健忘・精神的疲労
- 慢性咳嗽や咽喉の乾き
舌・脈の所見
- 舌: 淡紅または淡、苔薄白
- 脈: 細弱または虚数
病理機転
- 肺気虚により宗気が不足し、心を助けられず心気虚を生じる。
- 心気虚により血脈運行が弱まり、肺気の宣発粛降が損なわれる。
- 両者が相互に虚して呼吸・循環の機能低下を呈する。
- 重症例では息切れや動悸が著明で、軽い動作でも疲れる。
代表的な方剤
- 生脈散(しょうみゃくさん): 気陰両虚による動悸・息切れ・倦怠に。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう): 気虚の代表方。倦怠・息切れ・自汗に用いる。
- 炙甘草湯(しゃかんぞうとう): 心気虚・脈結代・不整脈などに適す。
- 人参養栄湯(にんじんようえいとう): 心肺気血両虚による倦怠・虚弱・不眠などに。
治法
- 益気養心: 心気を補い、血脈を充実させる。
- 補肺益気: 肺気を補い、呼吸を助け宗気を強化する。
- 調補心肺: 心と肺の機能をともに回復させることで、気血の運行を改善する。
養生の考え方
- 過労・過度な心労を避け、十分な休養と睡眠をとる。
- 軽い有酸素運動で肺気を養い、深呼吸を意識する。
- 温かく滋養のある食事(鶏肉、棗、人参、蜂蜜など)で気を補う。
- 悲しみ・心配事をため込まず、穏やかな心で過ごす。
まとめ
心肺両虚は、心気と肺気がともに虚して呼吸・循環機能が低下した状態です。
治療・養生の基本は「益気養心」「補肺益気」であり、心身の疲労回復と気の生成促進を図ることが重要です。
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