情志失調とは

情志失調(じょうししっちょう) とは、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚といった「七情(しちじょう)」の変化が過度または長期にわたることで、臓腑の気血運行や陰陽のバランスが乱れ、心身の不調を引き起こす状態を指します。
東洋医学では「内因の病」とされ、特に肝・心・脾などの臓腑に影響を与えやすく、精神的ストレスや感情の抑圧が多様な身体症状として現れます。


原因

  • 怒(いかり): 肝を傷り、肝気上逆・肝鬱気滞を生じる。
  • 喜(よろこびすぎ): 心を傷り、心気が散乱して精神集中ができなくなる。
  • 思(おもいすぎ): 脾を傷り、気が滞って食欲不振・消化不良を起こす。
  • 憂・悲(うれい・かなしみ): 肺を傷り、気が消沈して呼吸や気力が低下する。
  • 恐・驚(おそれ・おどろき): 腎を傷り、精気が損なわれて不安・動悸・尿失禁などを生じる。

主な症状

  • 情緒不安定・抑うつ・不眠
  • いらいら・ため息・胸脇のつかえ
  • 動悸・息切れ・めまい
  • 食欲不振・胃の不快感・下痢または便秘
  • 月経不順・月経痛(特に肝鬱による場合)
  • 肩や首のこり、頭痛、耳鳴りなど
  • 疲労感、無気力、集中力の低下

舌・脈の所見

  • 舌: 淡紅~紅、苔は薄白または薄黄、舌辺が紅いこともある
  • 脈: 弦または細、時に数

代表的な方剤

  • 柴胡疎肝湯(さいこそかんとう): 肝鬱気滞による胸脇のつかえ・いらいら・月経不順に。
  • 加味逍遥散(かみしょうようさん): 肝鬱血虚・イライラ・のぼせ・月経前症候群などに。
  • 帰脾湯(きひとう): 思慮過多による脾気虚・心血不足で、不眠・健忘・倦怠に。
  • 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう): 精神不安・ヒステリー様症状・神経過敏に。
  • 天王補心丹(てんのうほしんたん): 心腎陰虚による不眠・焦燥・多夢に。

養生の考え方

  • 感情を抑えすぎず、適度に発散する(散歩・深呼吸・趣味など)
  • ストレスをためず、リラックスする時間をつくる
  • 規則正しい生活と十分な睡眠をとる
  • 香りのよい食材(陳皮・紫蘇・ミントなど)で気を巡らせる
  • 暴飲暴食を避け、穏やかで温かい食事を心がける

まとめ

情志失調とは、感情の変動が過度になり、臓腑の気血や陰陽のバランスを乱すことで、心身両面の不調を起こす病態です。
治療・養生の基本は「疏肝理気」「調心安神」であり、心身の調和を取り戻し、感情の安定を図ることが重要です。

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