気陥(きかん)とは、気の昇降機能が低下し、特に「昇る力(昇提作用)」が弱まって、内臓や器官の位置が下がる・機能が低下する状態を指します。
東洋医学では「脾は昇清を主る」とされ、脾気が健やかであれば清陽(栄養分や気血)が上昇して全身を滋養します。しかし、脾気が虚して昇提力が失われると、気が下陥し、脱肛・子宮下垂・胃下垂・慢性下痢・めまい・倦怠などが生じます。
原因
- 脾気虚弱: 飲食不摂生・過労・思慮過多により脾気が衰え、昇提の機能が低下する。
- 気虚久病: 長期の病や慢性疲労により、元気が消耗して気が下陥する。
- 過度の出産・出血: 気血が損傷し、気の保持・昇提作用が弱まる。
- 老化・体力低下: 年齢とともに脾腎の機能が衰え、内臓下垂傾向が強まる。
主な症状
- 脱肛・子宮下垂・胃下垂などの内臓下垂
- 慢性下痢・尿漏れ・めまい・倦怠感
- 話すのが億劫・声に力がない
- 食後の眠気・重だるさ
- 顔色萎黄・息切れ・疲労感
- 舌は淡、苔は白、脈は虚・弱
舌・脈の所見
- 舌: 淡、苔白、胖大で歯痕あり(脾気虚の特徴)
- 脈: 虚・弱・緩
病理機転
- 脾は昇清を主り、全身の気を上に持ち上げる役割を担う。
- 脾気が虚すると昇提機能が低下し、清気が上がらず濁気が停滞する。
- その結果、内臓や器官が下垂し、排泄系の失調や慢性虚弱症状を引き起こす。
- さらに気虚が進むと「中気下陥」となり、全身の気血運行にも影響を及ぼす。
代表的な方剤
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう): 脾胃の気虚・中気下陥による倦怠、脱肛、子宮下垂、慢性下痢に。
- 升麻補中湯(しょうまほちゅうとう): 補中益気湯に升麻を加え、昇提力をさらに強める。
- 帰脾湯(きひとう): 脾気虚に加え、心血不足による不安・不眠を伴う場合に。
- 加味帰脾湯(かみきひとう): 気虚と情志失調が重なり、気陥に情緒不安が伴う場合に。
治法
養生の考え方
- 十分な休養と睡眠をとり、過労を避ける。
- 食事は温かく消化のよいものを摂取し、冷飲・過食を避ける。
- 長時間の立ち仕事や重労働を控え、内臓下垂を防ぐ。
- 適度な運動(軽いストレッチ・腹式呼吸など)で気の巡りを高める。
- 気持ちを穏やかに保ち、思慮過多を避ける(脾を守る)。
まとめ
気陥とは、主に脾気虚弱によって気の昇提作用が低下し、内臓や器官が下垂・脱出する状態をいう。
症状としては脱肛・子宮下垂・慢性下痢・倦怠感などがみられ、補中益気・升提固脱の治法を基本とする。
根本には「脾気の健やかさ」があり、気を補い上げる力を回復させることが重要である。
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