衝任不固とは

概要

衝任不固(しょうにんふこ)とは、衝脈・任脈の気血が虚して固める力を失い、経脈の統制が乱れる状態を指す。 主に女性の生殖機能に関係が深く、月経異常・崩漏・不妊・胎動不安などの症候を呈する。 衝任脈は「経水の海」「胎の本」とされ、女性の生理・妊娠・出産を司る経脈である。 この二脈の気血が虚して不固となると、経水が失調し、血が妄行または下陥する。

原因としては、久病・多産・房労過度・気血両虚腎虚などが多く、 女性の慢性的な虚弱体質にみられることが多い。



主な症状

  • 月経過多、月経周期短縮、経血がだらだらと続く
  • 崩漏(持続的な性器出血)
  • 胎動不安、流産しやすい
  • 顔色萎黄、倦怠、息切れ、めまい
  • 腰膝酸軟、耳鳴、健忘、性欲減退
  • 舌質淡、脈細弱または沈細

これらは、衝任の虚損により血が下陥または外溢し、月経・胎児を固摂できないことによって起こる。



病機

  • 腎気虚弱:腎は先天の本であり、衝任を主る。腎虚により精血不足、衝任が失養し不固となる。
  • 気血両虚脾気虚弱により血の生化が不足し、気も弱く血を統摂できない。
  • 房労過度・思慮過多:腎精を損し、また脾気を弱めて衝任を虚損させる。
  • 久病による気血損耗:衝任が虚して血が妄行または下陥する。


弁証要点

  • 月経量過多・崩漏などの出血症状
  • 胎動不安・流産傾向
  • 気血虚損・腎虚の証候(倦怠・腰膝軟・めまい・顔色淡)
  • 舌淡・脈細弱

衝任不固の核心は「衝任二脈の気血虚損・固摂失調」にある。 したがって治法は「補腎益気・養血固衝・安胎止血」を中心とする。



治法

補腎健脾益気養血・固衝安任

具体的には、腎虚が主であれば補腎を重視し、気血両虚が主であれば健脾養血を重視する。 出血が多い場合は止血薬を併用し、胎動不安を伴うときは安胎薬を加える。



代表方剤

  • 固衝湯(こしょうとう):益気健脾・養血固衝。衝任虚損による崩漏・月経過多に用いる。
  • 膠艾湯(きょうがいとう):補血止血。血虚による崩漏・胎漏に適す。
  • 寿胎丸(じゅたいがん):補腎安胎。腎虚による胎動不安・流産傾向に用いる。
  • 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):補血健脾・調経安胎。脾虚・血虚・腎虚が混在する場合に適す。
  • 右帰丸(うきがん):温補腎陽・固精安胎。腎陽虚による流産傾向に用いる。


臨床応用

  • 婦人の月経異常(周期短縮・経量過多・崩漏)
  • 妊娠中の胎動不安・流産傾向
  • 慢性の貧血・倦怠・冷え・腰膝軟
  • 産後の体力低下に伴う月経不順


まとめ

衝任不固とは、腎気・気血の虚損によって衝任脈が固める力を失い、月経や胎児を維持できなくなる状態である。 主な症候は月経過多・崩漏・流産傾向などで、治法は補腎健脾益気養血・固衝安胎。 代表方剤は固衝湯・膠艾湯・寿胎丸・当帰芍薬散などであり、婦人科疾患の基本的な虚証の一つとして臨床上きわめて重要である。

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