概要
安胎止血(あんたいしけつ)とは、妊娠中の胎動不安・出血を抑え、胎を安定させる治法である。 妊娠中は「胎元」が母体の気血に依存するため、母体の気血虚弱・腎虚・血熱・瘀血などがあると、 胎を養う力が不足して胎動不安(流産傾向)や妊娠中出血を生じやすい。 安胎止血法は、これらの原因に応じて補気・養血・清熱・滋陰・祛瘀などを行い、 胎を安定させるとともに出血を止めることを目的とする。
主に、妊娠初期の胎動不安・少量の性器出血・腹痛・腰重感・倦怠などの症状に対して用いられる。
主な適応症状
- 妊娠初期または中期の下腹部痛・腰重感
- 妊娠中の少量の性器出血(色淡・色暗)
- 倦怠・息切れ・食欲不振
- 不安感・めまい・顔色萎黄
- 舌淡または暗紅、苔薄白、脈細弱または弦滑
これらは、気血虚弱・腎虚・血熱妄行・瘀血内阻などにより胎が安定を失い、 子宮に軽度の動乱が生じることによって起こる。
主な病機
- 気虚下陥 → 胎元不固 → 胎動不安・出血。
- 血虚不養 → 血脈失栄 → 出血・腹痛。
- 腎虚胎元不固 → 胎気不安 → 腰重・流産傾向。
- 血熱妄行 → 胎絡損傷 → 出血・胎動不安。
- 瘀血阻絡 → 血行不暢 → 下腹痛・胎不安。
安胎止血法は、これらの原因を弁別し、補気・養血・滋腎・清熱・祛瘀のいずれかを主としながら、 胎を安んじて出血を止めることを目的とする。
主な配合法
- 安胎止血+補気固胎:気虚による胎動不安(例:寿胎丸・人参湯+阿膠)。
- 安胎止血+養血安胎:血虚による出血・腹痛(例:当帰散・膠艾湯)。
- 安胎止血+滋腎安胎:腎虚による流産傾向・腰重(例:寿胎丸・加味右帰丸)。
- 安胎止血+清熱涼血:血熱による胎動不安・出血(例:保陰煎・清熱安胎湯)。
- 安胎止血+祛瘀安胎:瘀血阻滞による腹痛・出血(例:芎帰膠艾湯・桂枝茯苓丸)。
代表的な方剤
- 寿胎丸(じゅたいがん):補腎安胎。腎虚胎元不固による胎動不安・流産傾向に用いる。
- 当帰散(とうきさん):補血安胎。血虚による胎動不安や下腹痛に適す。
- 膠艾湯(きょうがいとう):補血止血。血虚による妊娠中出血・胎漏に用いる。
- 保陰煎(ほいんせん):清熱涼血・養陰安胎。血熱による出血・煩躁・口渇に適す。
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):活血化瘀・調経安胎。瘀血による胎不安・腹痛に用いる。
臨床での応用ポイント
- 安胎止血は、母体の虚実・寒熱・気血の状態をよく弁別して施すことが重要。
- 虚証(気血・腎虚)が多いため、補益薬を主体とすることが多い。
- 出血が鮮紅で熱象を伴う場合は、清熱涼血薬を併用する。
- 瘀血を伴う場合は、軽度の活血薬(例:当帰・丹参)を慎重に用いる。
- 安胎薬はすべて「安胎不動胎」を目的とするが、流産傾向が強いときは慎重に用いる。
まとめ
安胎止血法は、妊娠中の胎動不安や出血を鎮め、胎を安定させる治法である。 代表方剤は寿胎丸・膠艾湯・当帰散・保陰煎・桂枝茯苓丸などであり、 母体の気血・腎の虚弱、血熱、瘀血などの証に応じて使い分ける。 臨床上は、補気養血・滋腎安胎・清熱涼血のいずれを主とするかを見極めることが重要である。
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