滋陰降火湯（じいんこうかとう）

📘 基本情報

項目	内容
方剤名	滋陰降火湯（じいんこうかとう）
出典	『万病回春』
分類	滋陰降火剤・補陰清熱剤
構成生薬	知母・黄柏・当帰・地黄・白芍・麦門冬・牡丹皮・山梔子・甘草
保険適用エキス製剤	滋陰降火湯（ツムラ136、クラシエ136など）

🧭 方意（効能と主治）

区分	内容
効能	滋陰降火・清熱安神・養血調経。
主治	肝腎陰虚による虚熱上炎： ・のぼせ、ほてり、寝汗、口渇、咽喉の乾燥 ・不眠、動悸、いらいら ・皮膚の乾燥、便秘、尿黄 ・月経不順、更年期障害など。
病機	肝腎の陰虚により、虚火が上炎して心火が旺盛となる。 陰液を滋養し、火を降ろすことで陰陽の均衡を回復する。 知母・黄柏で虚熱を冷まし、地黄・当帰・白芍・麦門冬で陰血を補う。 牡丹皮・山梔子で血分の鬱熱を清し、甘草で調和する。

🌡 臨床的特徴

観点	内容
典型的症状	・午後になるとのぼせやすい ・顔や手のほてり・赤ら顔 ・咽喉や口の乾燥、寝汗、微熱 ・不眠・焦燥・動悸・夢が多い ・便秘や尿の黄色・少量 ・月経不順または経血量少。
体質傾向	やや虚証～中間証。 陰虚（体液・血液の不足）＋虚熱（内熱・のぼせ）タイプ。 特に更年期女性・慢性疾患後・精神的緊張が続く人に多い。
舌診	紅舌、少苔または無苔、舌尖が赤い。
脈診	細数または虚数。

💊 構成生薬と作用

生薬	主要作用
知母（ちも）	清熱瀉火・滋陰生津。虚熱を鎮める主薬。
黄柏（おうばく）	瀉火燥湿・清熱解毒。下焦の虚火を鎮める。
地黄（じおう）	滋陰養血・清熱涼血。陰を補って火を抑える。
当帰（とうき）	補血活血・調経止痛。血を養い、血行を整える。
白芍（びゃくしゃく）	養血柔肝・止痛。肝陰を養ってイライラを鎮める。
麦門冬（ばくもんどう）	養陰潤燥・清熱生津。咽喉や皮膚の乾きを和らげる。
牡丹皮（ぼたんぴ）	清熱涼血・活血散瘀。血分の熱を去る。
山梔子（さんしし）	瀉火除煩・清熱利湿。心火を降ろしてイライラを鎮める。
甘草（かんぞう）	補中益気・調和諸薬。全体を和らげる。

🩺 現代医学的な理解

• 自律神経調整作用（のぼせ・ほてり・不眠・動悸などを改善）。
• 女性ホルモンバランスの安定化（更年期障害に有効）。
• 抗酸化・抗炎症作用（慢性疲労・皮膚炎の軽減）。
• 体温調節・末梢循環改善。

💬 臨床応用例

• 更年期障害（のぼせ・ほてり・不眠・寝汗）。
• 慢性咽喉炎・声のかすれ・乾燥性咳嗽。
• 高血圧に伴う顔面紅潮・頭痛・不眠。
• 月経不順・月経困難・血の道症。
• 糖尿病・慢性腎炎などの陰虚火旺体質。

⚖️ 類方鑑別

方剤名	鑑別点
知柏地黄丸	滋陰降火湯よりも腎虚が主体。遺精・尿少・口渇などに用いる。
天王補心丹	心腎陰虚が著しく、焦燥・不安・不眠が強い場合に適す。
六味地黄丸	虚熱が少なく、単なる腎陰虚（冷えと疲れ）に適す。
加味逍遥散	肝鬱気滞が主体で、イライラ・胸脇痛・月経不順に伴う。
黄連解毒湯	実火が強く、のぼせ・顔面紅潮・イライラ・不眠が激しい場合。

⚠️ 使用上の注意

• 寒証・冷えのある人には不向き（冷えを悪化させる）。
• 長期連用時は、虚寒化しないよう注意する。
• 体力が著しく低下している場合は、補気薬を併用することもある。

📖 メモ（臨床的要点）

• 「更年期障害ののぼせ・寝汗・不眠」に対する基本方。
• 「陰を補って火を下げる」──滋陰降火の代表処方。
• イライラ・不眠・のぼせ・口渇などの“虚熱上炎”がキーポイント。
• 同じ“のぼせ”でも、実火には黄連解毒湯、虚火には本方。
• 更年期女性・神経疲労・高齢者の虚熱に特に適す。