概要
涼血止瀉(りょうけつししゃ)とは、 血熱または血分の熱によって引き起こされた下痢・下血を、血を涼し熱を清して止瀉する治法である。 主に、腸中に熱邪がこもり、血絡を損傷して血分に熱が生じた結果、便中に血を混じるような病証に用いられる。
中医学では、「熱盛は血を妄行させる」とされ、腸内に熱がこもると血絡が損傷して出血性の下痢(血便・赤痢)が生じる。 涼血止瀉法は、こうした「血熱による下痢・下血」に対し、熱を冷まし、血分を清し、腸絡を安定させることで止瀉することを目的とする。
主な適応症状
- 下痢に血を混じる・血便
- 赤痢(膿血便・粘血便)
- 便臭が強く、肛門灼熱感
- 口渇・舌紅・苔黄・脈数
- 腹痛・下腹部の熱感
- 発熱・尿赤・心煩
これらの症状は、主に湿熱下注・血熱内盛・熱毒熾盛などによって腸絡が損傷され、出血性の下痢となる。 したがって涼血止瀉法は、単なる止瀉ではなく、清熱・涼血・解毒・化湿を兼ねて行う。
主な病機
これらの病機に対し、涼血止瀉法では清熱涼血を主とし、必要に応じて解毒・化湿・行気を併用する。
主な配合法
- 涼血止瀉+清熱解毒:熱毒が腸絡を損傷して血便を生じるとき(例:白頭翁湯)。
- 涼血止瀉+燥湿健脾:湿熱が長引いて脾虚を伴うとき(例:黄連阿膠湯+茯苓・白朮)。
- 涼血止瀉+化湿止痛:腹痛が強い場合(例:葛根黄芩黄連湯)。
- 涼血止瀉+養陰生津:熱傷陰により口乾・舌紅があるとき(例:阿膠・麦門冬の併用)。
- 涼血止瀉+利湿通腸:湿熱が盛んで下痢が止まらないとき(例:黄芩・黄連・木通の配合)。
代表的な方剤
- 白頭翁湯(はくとうおうとう):清熱解毒・涼血止痢。熱毒赤痢・血便に。
- 黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう):清熱瀉火・養陰止血。血熱による下血に。
- 芍薬湯(しゃくやくとう):清熱調気・化湿止痢。湿熱赤痢に応用。
- 葛根黄芩黄連湯(かっこんおうごんおうれんとう):清熱解表・止痢。外感挟熱による下痢・赤痢に。
- 地榆炭(ちゆたん):涼血止血・止痢の単味薬として併用される。
臨床でのポイント
- 熱盛・血熱・湿熱など、実熱性の下痢・下血に適する。
- 寒湿や虚寒による下痢(冷えによる水様便)には禁忌。
- 赤痢・潰瘍性大腸炎・痔出血などの炎症性腸疾患に応用される。
- 便に血を混じる場合は、清熱と止血の両面から治療する。
- 慢性化して陰虚を伴う場合は、養陰薬を加えるとよい。
まとめ
涼血止瀉法は、血熱や湿熱が腸絡を損傷して生じる赤痢・血便・下血性の下痢に対して、 熱を冷まし血を涼して止瀉する治法である。 代表方剤は白頭翁湯・黄連阿膠湯・芍薬湯・葛根黄芩黄連湯など。 清熱・涼血・解毒・化湿を兼ねて、腸の熱を除き出血を止め、腸道を安定させる。
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