概念
温経止痛（おんけいしつう）とは、 寒邪または陽気虚衰によって経脈が冷え、気血の運行が阻滞して生じる疼痛を、温めて通すことによって軽減・除去する治法である。 主に寒凝血滞・陽虚寒凝などの病機に適用され、 「温経以通」「通則不痛」の原理に基づく。 冷えが経脈・気血の流通を妨げると疼痛が生じるため、 温陽散寒・活血通絡の薬物を用いて痛みを解消する。
所属
温裏法および活血止痛法の一部に属する。
効能
- 温経散寒：寒邪を温めて散じ、経脈の寒凝を除く。
- 活血通絡：寒によって停滞した血脈を通じ、疼痛を除去。
- 補陽益気：陽虚による冷えや虚寒性の痛みを改善。
- 止痛安経：経絡を温通させることで痛みを鎮め、月経を調える。
主治
- 寒凝血滞による痛み：冷えにより痛みが増悪し、温めると軽減する。
- 寒疝・少腹冷痛：下腹部の冷痛・引きつれ感・月経痛。
- 寒邪による関節痛・腰痛：寒湿痺・冷感を伴う疼痛。
- 月経不順・経痛：寒邪が衝任脈を阻むことによる経行不利・経痛。
病機
寒邪が経脈に侵入すると、血脈が収縮して滞り、気血の運行が障害される。 また、陽虚によって温煦作用が不足すると寒が生じ、血行が悪化し疼痛が発生する。 このため、温経散寒・活血通絡によって経脈を温め通すことが必要となる。
代表方剤
- 温経湯（うんけいとう）：温経散寒・養血調経。虚寒性の月経不順・経痛に用いる。
- 当帰四逆湯（とうきしぎゃくとう）：温経散寒・養血通脈。手足の冷え・少腹痛に適す。
- 呉茱萸湯（ごしゅゆとう）：温中散寒・降逆止痛。冷えによる胃脘痛・頭痛・嘔吐に用いる。
- 附子湯（ぶしとう）：温経助陽・散寒止痛。寒湿痺や腰膝冷痛に適す。
- 桂枝加桂湯（けいしかけいとう）：温経助陽・通痺止痛。寒痺や肩背痛に応用。
応用
- 寒冷や冷飲による腹痛・下痢
- 冷え性・手足冷感・下腹部痛
- 寒湿痺による腰痛・関節痛
- 冷えを伴う月経痛・経閉
使用上の注意
- 実熱・湿熱・陰虚内熱のある場合は禁忌。
- 虚寒性の痛みか寒凝血滞かを弁別して使用する。
- 高齢者・虚弱体質では補陽薬と併用し、温経扶正とする。
まとめ
温経止痛法は、寒によって経脈が閉塞し、気血運行が阻まれて生じる疼痛に用いる治法である。 温陽散寒・活血通絡を主とし、虚寒・寒凝血滞・冷え性痛などに適応する。 代表方剤は温経湯・当帰四逆湯・附子湯などであり、 「温則通、通則不痛」の原則に基づいて疼痛を除く。
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