概要
健脾補腎（けんぴほじん）とは、 脾の運化機能を健やかにし、腎の精気を補う治法である。 脾腎は共に水穀の精微と水液代謝を主り、生命活動の基盤を支える臓である。 脾は「後天の本」、腎は「先天の本」とされ、脾腎の虚損はしばしば相互に影響し、 気血生化の不足・水湿停滞・冷え・下痢・浮腫・疲労感など多様な病態を生じる。 そのため、脾を健やかにして後天の気血生成を助け、腎を補って先天の根本を固めることが、慢性虚弱の改善に不可欠である。
主な作用
- 健脾：脾気を強め、飲食物の消化吸収・運化を促す。
- 補腎：腎精・腎陽・腎陰を滋養し、生命力・代謝・水分調整を回復させる。
- 助陽化気：腎陽を補って水液代謝を助け、冷え・浮腫・下痢を改善する。
- 益気生血：脾腎両虚による気血不足・倦怠・顔色不良を改善する。
特に、脾腎両虚（脾の運化失調と腎陽不足の併存）に適し、 慢性疾患や老化に伴う虚弱体質に広く応用される。
主な適応症状
- 食欲不振・腹部膨満感・下痢・軟便
- 手足の冷え・腰膝のだるさ・冷痛
- 倦怠感・無力感・疲れやすい
- 顔色不良・むくみ・尿量減少
- 早朝下痢（五更瀉）・頻尿・遺尿・不妊など
- 舌質淡胖・舌苔白・脈沈細無力
これらは主に、脾気虚弱による水穀運化障害と、 腎陽虚または腎精不足による温煦機能低下が背景にある。
主な病機と治法方向
- 脾腎陽虚：温補脾腎・健脾助陽（例：附子理中湯＋真武湯）。
- 脾腎気虚：益気健脾・補腎固本（例：六君子湯＋八味地黄丸）。
- 脾腎両虚による下痢：温補脾腎・固渋止瀉（例：四神丸・真人養脏湯）。
- 脾腎両虚による不妊・性機能低下：補腎健脾・益気養血（例：帰脾湯・右帰丸）。
- 老化・慢性病後の虚弱：健脾補腎・扶正培本（例：十全大補湯・八珍湯）。
脾を健やかにして後天の気血を充実させ、腎を補って精気の根本を強化することが治療の中心である。
代表的な方剤
- 附子理中湯（ぶしりちゅうとう）：温中補気・健脾助陽。冷え・下痢・倦怠に。
- 真武湯（しんぶとう）：温陽利水・健脾補腎。冷え・浮腫・下痢に。
- 四神丸（ししんがん）：温腎健脾・固瀉止瀉。五更瀉（早朝下痢）に適す。
- 帰脾湯（きひとう）：健脾益気・補血安神。気血両虚・不眠・健忘に。
- 八味地黄丸（はちみじおうがん）：補腎助陽。腰膝冷痛・排尿異常・老化症状に。
- 十全大補湯（じゅうぜんたいほとう）：気血双補・扶正培元。長期虚弱・病後回復に。
臨床応用のポイント
- 脾と腎の両方の虚を補うことが重要。単に脾を補うだけでは再発しやすい。
- 冷え・下痢・早朝瀉など「陽虚」が明らかな場合は温補薬を加える。
- 長期病・老化・慢性疲労などには、脾腎を補って体質の根本改善を図る。
- 水湿の停滞がある場合は、健脾化湿薬（例：白朮・茯苓）を併用する。
- 腎精虚による不妊・腰膝酸軟などには、山薬・枸杞子・杜仲などを配合する。
まとめ
健脾補腎法は、脾を健やかにして後天の気血生成を助け、腎を補って生命の根本を固める治法である。 代表方剤には附子理中湯・真武湯・四神丸・帰脾湯・八味地黄丸などがあり、 慢性の冷え・下痢・倦怠・浮腫・虚弱体質に幅広く応用される。 脾腎を併せて補うことで、虚弱の根本改善と体力回復を図るのが本法の核心である。
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