黄疸(おうだん)とは、皮膚・目の白目(強膜)・小便などが黄色くなる症候を指し、主に湿熱や寒湿が肝胆・脾胃に影響し、胆汁の排泄が障害されることで生じます。
中医学では「黄疸は湿より生ず」とされ、湿邪が主因であり、熱や寒、瘀血などがこれに加わって発症します。
黄疸はその性質によって陽黄(ようおう)と陰黄(いんおう)の二大類に分けられます。
分類
- 陽黄: 主に湿熱による。色が鮮やかで明るい黄、発熱・口苦・小便短赤などを伴う。
- 陰黄: 主に寒湿による。色がくすんだ暗黄色、食欲不振・寒がり・倦怠感を伴う。
原因
- 湿熱内蕴: 暑湿・飲食不節・酒毒などにより、湿熱が肝胆にこもる。
- 寒湿困脾: 冷飲食や虚弱体質によって脾陽が損なわれ、湿が停滞する。
- 瘀血阻滞: 血行不暢によって胆汁の運行が妨げられる。
- 疫毒侵襲: 流行性の湿熱毒邪が肝胆を犯す(急性の黄疸に多い)。
- 脾虚湿滞: 慢性の虚弱・過労などにより脾気が不足し、湿が除けない。
病理機転
- 湿邪が肝胆に侵入すると、胆汁の流れが阻まれ、体表に滲出して黄染する。
- 湿熱が盛んな場合は陽黄となり、鮮やかな黄・熱感・尿短赤を呈する。
- 寒湿や脾虚による場合は陰黄となり、暗くくすんだ黄・倦怠・食欲不振を示す。
- 長期化すると、湿が瘀血や痰熱を生じ、癥塊・腹水・肝脾腫大などに発展することもある。
主な症状
◆陽黄(湿熱)
- 皮膚・眼球が鮮やかな黄色
- 発熱・口苦・口渇・心煩
- 小便短赤・便秘
- 胸脇脹満・悪心・食欲不振
- 舌紅・苔黄膩、脈滑数
◆陰黄(寒湿)
- 皮膚の色がくすんだ淡黄または灰黄
- 倦怠感・寒がり・四肢の冷え
- 食欲不振・腹満・軟便
- 小便が淡黄または無色
- 舌淡胖・苔白膩、脈沈遅または濡
舌・脈の所見
- 陽黄: 舌紅・苔黄膩、脈滑数
- 陰黄: 舌淡胖・苔白膩、脈沈遅または濡
代表的な方剤
- 茵陳蒿湯(いんちんこうとう): 湿熱黄疸の基本方。鮮明な黄疸・発熱・尿短赤に。
- 茵陳五苓散(いんちんごれいさん): 湿熱と水湿停滞が並存する黄疸に。
- 甘露消毒丹(かんろしょうどくたん): 疫毒による湿熱黄疸に。
- 茵陳朮苓湯(いんちんじゅつりょうとう): 寒湿による陰黄に。
- 小柴胡湯(しょうさいことう): 少陽枢機不利による胸脇苦満・黄疸に。
治法
- 清熱利湿: 湿熱による陽黄に対し、肝胆の熱を冷まし湿を除く。
- 健脾化湿: 脾虚による湿滞を改善し、運化を助ける。
- 温陽利湿: 寒湿による陰黄に対し、脾陽を温め湿を散らす。
- 解毒透邪: 疫毒による急性黄疸に用いる。
養生の考え方
- 脂っこい食事やアルコールを避け、消化のよい食事を摂る。
- 油・甘味・辛味の過剰を避け、清淡な食を心がける。
- 水分を十分にとり、尿の流れをよくする。
- ストレスを減らし、肝気をのびやかに保つ。
- 適度な運動や十分な休養をとり、脾胃を守る。
まとめ
黄疸は、主に湿邪が肝胆に滞り、胆汁の流通が妨げられて発生する病態です。
鮮明な黄色で熱症状を伴う陽黄(湿熱)と、くすんだ黄色で虚寒傾向を示す陰黄(寒湿)に大別されます。
治療の基本は「清熱利湿・健脾化湿・温陽化濕」であり、体内の湿を除き胆汁の流れを回復させることが要点です。
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